第4話 捕食

「やばっ! 『捕食』って、食わなきゃいけないんだよな……? あんな気持ち悪いもの食えねぇっっ!」


 厨房で牛乳を飲みながら、俺は事実に気がついた。ゲームであれば、『捕食』のコマンドを選ぶだけだ。しかし、ここは現実。あのモンスターを口にするわけだ。ジビエ料理なら分かるが、モンスターはいかがなものか。この街付近では、スライムがメインだしな。グミみたいなと味と食感なら、いけるかもしれない。


 さっき確認したステータスも、まぁまぁ良い感じになってきたと思う。種族毎に能力の上限数値は決まっているはずだ。限界突破という上限を無視できる、補正型の技能スキルもあったのを確認した。俺が狙う技能スキルの一つだ。


「レオン! 暇なら手伝っておくれ!」

「あいよ!」


 母親というのは、どの世界でも口うるさいな……。仕方なしに、俺は皿洗いを始めることにした。今夜は団体客でもいるのか、フロアが賑わっている気がする。


 この世界での家族は優しく、放任主義だ。特にあれこれ言われることはない。後を継ぐことも、迫られていない。せいぜい、店の手伝いをしろと言われるくらいだ。トラジール家の構成は、俺を入れて、父と母と姉の四人家族。この定食屋は家族経営だ。父はバロン、母はローザ、姉はアメリア。日本人の俺からすれば、あまり慣れ親しんだ名前ではないのだが、流石にもう慣れた。


「おい、レオン! 良い肉が手に入ったんだが、食うか? レアな肉だぞ!」

「マジか! 親父、何の肉なんだ?」

「驚くなよ! 竜の尻尾ドラゴンテイルだ! 珍しいだろ? 市場で手に入れたんだ!」


 皿洗いを終え一息ついていると、親父が声をかけてきた。竜の肉は、なかなか出回らない希少価値の高い食材だ。それに、味も抜群。A5ランクの和牛に値するんじゃないかと、俺は感じてしまう。A5ランクの和牛を、そんなに食べたわけではないんだが。


「食う! 食う!」

「そこにお前の分があるから、焼いて食べて構わんぞ!」

「親父! ありがとな!」


 俺は早速、鉄板の上に肉を乗せて焼きだす。レンガで作られた釜の中で、炭火の炎が揺らめいている。釜の上にひかれた鉄板で、肉が良い音をだし育っている。焼肉はどの世界でも浪漫だ。


「強火エリアから、弱火エリア! 完璧な肉さばきだ! お、パエリアの残りもあるな! 温めてと……さて、いただきますっ!」

「レオン! ちょっと気持ち悪いから、独り言はやめてよね!」

「おふっ!! 姉ちゃん……いきなり背後から股間を蹴るなよ!!」


 姉のアメリアは何かと俺に厳しい。5つ離れた姉は、俺の教育係を自認している。アメリアは、ブロンドの長い髪を後ろで束ねている。背は俺より頭一つ低い。目は大きく、キリッとした強い眼差し。美人という部類に入るだろう。俺が悪いことをしていると、何かと股間を蹴るのがたまに傷だと思う。


「じゃあ、静かにしなさい!」

「わ、分かった……」


 あの女神めよりによってこんな家庭に、とは思うことも無くはないが、楽しい時間が過ごせている。少しだけ感謝してみたりもする。そんなことより、肉。肉が冷めないうちに食べなければ。


 口にする竜の尻尾ドラゴンテイル肉。塩で軽く味付をしただけだが、肉の甘みと脂の旨味がかなり引き立つ。旨い、旨すぎる。俺はあっと言う間に、肉をたいらげていた。食べた後に、いつもの声が頭に響き俺は驚いていた。


『経験値1000を取得しました。竜の息吹ドラゴンブレス技能スキルポイント1を取得しました。ポイントが100貯まれば、技能スキルの使用が可能となります』


「え? ええっっっ! まじかよ!!」

「だから、独り言はやめなさい!!」

「グヌはっっっ!!」


 男にしか分からない苦しみ。俺は、悶えながら崩れ落ちた。モンスターの肉を食べるのも、捕食であることに気がついたのは、いい収穫だ。食事で体を作る。筋トレの本にも書いてあったな。高レベルのモンスターの肉を食べるほうが、効率がいいかもしれないと感じてしまう。


 この日を境に、筋トレとスライム退治に加え、モンスター肉を市場で買い漁る生活を俺は過ごした。16歳になる時まである程度の力量を付けておきたいと、俺は考えていた。



 

 



 


 

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