第5話 旅立ちの日

「ぐえっっっ! まずっ!!」


 捕食初期の俺の感想。スライムを捕食するという行為を試した時に感じたものだ。ぐにゃぐにゃとした、ゼリーというかコンニャクというか。見た目も相まって、俺はかなり抵抗を感じていた。


「うん! 安定の味だ。悪く無いな!」


 半年以上、捕食を繰り返すことでスライムの味にも慣れてしまった。ゼリー状飲料だと思い込んで飲むと、ほのかな甘みさえ感じてしまう。


 『捕食』を取得して、半年以上がたつ。俺も、16歳になった。前の人生の年齢も通算すると、考えたくは無いな……。12ヶ月で1年というのは、同じ様だ。1ヶ月は40日ある。長いようで、あまり変わらない感覚だ。モンスターの肉はあまり手に入らず、結局はスライム捕食生活で強さを磨くしかなかった。


 地道な行動ではあるが、成果は着実に実を結んだと思う。ステータスも悪くはない。スライムの中にも色々な種類がいたので、そこそこの技能スキルを得ることも出来た。俺の知る金属質なスライムとも遭遇することがあった。あいつは、経験値もさることながら味も秀逸であり、一度でニ度美味しかった。めったに遭遇しないのは、この世界でもお約束みたいだ。


 ベッドの中から出られずに、俺は二度寝でもしようかと思ったが、そうはさせまいと邪魔が入ってきた。


「いつまで寝てるの! レオン、起きなさいよ!」

「今、起きるところだって。姉ちゃん、朝から声がでかいって……怪物かよ!」


 口にしてはいけない。悪口は人に向かって言ってはいけない。俺は分かっている様で、分かっていなかった。頬の痛みと共に、そのことに気が付く。アメリアがパンを引き伸ばす棒で、俺の頬を引っ叩いてきた。


ぶぉめんなさい!!」

「二度と女子に悪口を言っちゃだめよ? 分かったかしら?」


 アメリアを見ていると、ドス黒い笑顔という言葉しか浮かんでこない。俺は静かにうなずいた。他人のステータスが分かることはないのたが、それなりに怪力だろうなと俺は思う。アメリアの加護は、料理に関するものだったはずだ。


 俺は静かにアメリアの後を歩き、リビングに向かった。我が家の台所は、店と兼用。食事をするリビングは、別となっている。レトルトや惣菜て暮らしていた頃より遥かにマシな食生活だ。食文化は全く違うし、レベルも違うが、元の世界の料理を作ろうと思えば不可能でもない。それなりに、便利な世界だと俺は思う。


「いよいよだな、レオン! 準備は大丈夫なのか?」

「レオン、荷物はまとめたのかい?」 


 親父とお袋が席につくなり、話しかけてくる。明日は冒険者ギルドの試験日。簡単な体力テストと、技能試験があると案内書に書いてあった。冒険者ギルドのある州都に、今日出発する。


「問題ないさ。あれって試験とは名ばかりじゃないかな? よほどのことがない限り、落ちないはずだ!」

「あんたなら、よほどのことがあるのよ!」


 後頭部に痛みを感じると、鬼の形相をしたアメリアがたっている。頻繁に叩かれているせいか、俺も慣れてきているが。変な癖が目覚めないようにしたいものだと思うくらいだ。


 モルベガの世界。モルベガ大陸には、複数の国家がある。ゼオンタクティクスでは聞いたことがない国や街なので、やはり全てが同じというわけではない。俺が暮らす場所は、ロイド王国ルルマー州ルマール市。国内には王都の他に三つの州があり、それぞれにいくつかの市や町がある。


 冒険者ギルドは王都に本部を置き、州都に支部を置いている。街にあるのは、簡単な依頼を受発注する出張所といったところだ。試験は支部以上で開催される。そのため、俺は州都ルルマーに行かないとならない訳だ。ルマールからは馬車で半日近くかかる。


「まあ、任せておけって! 冒険者になって、魔王をちょっと倒してくるからさ! はははっ……?」


 本気で言っているのだが、反応がない。この世界の住人にとっては、魔王は恐怖の象徴。伝承が恐怖を助長させ、根付かせている気もする。魔王が復活したと噂が出てからは、国家同士の争いも無い。敵の敵は味方とでも言うのか。


「じゃあ、とりあえず行ってくるわ!」

「レオン! 気をつけろよ!」


 居たたまれなくなり、俺は急ぐように家をでた。ルルマーに向かう馬車乗場に着き、俺は唖然とする。しまった……。あと、1時間は出発しない……。


 家に帰るでもなく、近場のカフェで珈琲を飲みながら、俺は待つことにした。この世界の珈琲は、俺の好きな香りがする。



◇◇◇◇◇◇



名前:レオン・トラジール

職業:無職

レベル:1

ステータス:体力 C(45/100)

      筋力 B(56/100)

      敏捷 C(40/100)

      魔力 D(31/100)

      精神 D(31/100)

技能スキル :捕食、打撃耐性(E)、毒耐性(E)

          急所攻撃耐性(D)

      

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