第17話 予選会
「ありがとな」
「いいの、いいの! お礼なんて!」
出場にレベル制限があったのだが、クレアのコネで俺は武闘会に参加することができる。ものすごい借りを作ってしまったという後悔は、この試合で暴れて忘れよう。
「じゃ、ちょっと楽しんで来るか!」
「レオン! ちゃんと優勝して来なさいよ!」
クレアと別れ、俺は武闘会の受付に向かった。受付で本人確認を済ませ、選手控室に入る。ここで武闘会のルールやら諸説明があると俺は聞いていた。
控室と言っても、武闘会闘技場の横にあるスペース。長椅子が置かれているだけだ。しかし、この闘技場は俺がゼオンタクティクスで見た光景に似ている。レンガで装飾された長方形の闘技場。その周囲を囲む形で観客席が広がっていた。
武闘会運営の一人だろうか、黒の礼服に身を包んだ男がこちらに歩いて来る。周りを見渡すと、出場者はざっと数えても五十人位はいそうだ。まだ全員揃っていなさそうだが。とりあえず、俺は説明が始まるのを待つしかない。待つこと数分だろうか、先程の男が口を開いた。
「参加者の皆様、お疲れ様です。本武闘会における禁止事項、予選会のルール等について説明させて頂きます……」
――説明の内容はこうだ。
・殺生は禁止
・体術のみ使用可能。身体強化、体術系スキルも可
・武器の使用は禁止
・予選会で8名まで絞る
・本戦ではリングアウトあり
・本戦の勝敗はKO、ダウン後5カウント
内容をまとめればまとめるほど、俺は格闘漫画の武闘大会を思い出してしまう。武闘大会あるあるだなと、笑いが込み上げて来た。以前の転生者が広めたのかもしれない。
予選会の内容を聞いて、俺はさらに驚いた。思わず心の声でツッコミを入れてしまうほどだ。予選会では、パンチ力測定と筋力測定対決の総合判定ときた。制限時間内の腕立て伏せ回数を競う……。
――どこが武闘会だっ! ってか絶対にテレビ番組のやつだろ! 有名な武闘会予選のパクリじゃねぇかっ!!
異世界という場所は、もはや何でもありなのかもしれないな。文句を言ったところで、何も始まらないだろうし。
――まあ、楽しんでみるか。
◇◇◇◇◇
『500....558....495.....』
次々と表示される数値。ゲームセンターにある、パンチングマシーン。どこからどう見ても、パンチングマシーン。それにしか見えないフォルムだ。この世界での測定原理は俺には分からないが。本気を出して壊してもマズイだろう。多少は手加減をしようと俺は考えていた。
「レオン選手」
ようやく俺の名前が呼ばれる。測定器の前で軽く構え、俺は静かに目印へ拳を撃ち込んだ。
『715』
良い数値なのか、いまいちピンと来ない。ただ、周りの数字より少しは良い程度にしたはずだ。周りのどよめく声に、やり過ぎたかと心配したが杞憂であった。
『1000』
隣の測定器で叩き出された点数だ。コレに驚きの声が上がっていたようだ。俺の点数に驚かれたと勘違いしたことが恥ずかしい。気を取り直し、俺は腕立て伏せの場所に向かった。
◇◇◇◇◇
「レオン選手、予選通過です!」
当然といえば、当然かもしれない。腕立て伏せは、制限時間10分。筋トレマニアの俺にとっては、適切な時間だった。1回あたり1秒のペースで10分やれば、良い点数になる。パンチ力測定も700点以上は数人しかいなかったのだから、総合判定で上位8名に食い込める計算でもあった。
本戦は昼休憩後。簡単な軽食が出るらしいから、腹ごしらえでもするか。俺は、休憩室に向かった。並べられているのは、軽食にフルーツ。食べ過ぎて動けなくなるのも嫌だしなと、フルーツを手にとり口に運ぶ。
トーナメント表が貼り出されるまで、暫く待つことになりそうだな。
俺は静かに待つことにした。
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