4章 王都ロイドシティ

第16話 宴

「すげぇ……」


俺は驚きを隠せず、声を漏らしていた。綺羅びやかな内装、テレビなどで見た王城でのセレモニー。中世、現代問わず最高峰のおもてなしとなると、まさに荘厳だ。広間に施された装飾や、飾られている絵画に彫刻。俺はファンタジー映画でしか見たことが無い光景にも圧倒されていた。


王都ロイドシティ。俺は勇者誕生のセレモニーに来ていた。と言っても、クレアの同行に過ぎないのだが。


「やっぱり、勇者って面倒よね……」

「今更、それを言うな」

「老後資金も潤沢だし、あとはレオンに任せるわ!」

「だから、あの金塊はクレアだけの物ではないだろっ……」


以前、モンスターから得た多量の金塊。自分のものだと言い張るクレアには呆れてしまう。まあ、折半しても十分なのは確かだ。確かにクレアとは別れ、一人旅した方が、まだましなのかもしれないと俺は思ってしまう。そんなことを考えながら、俺はセレモニーの壇上に向かうクレアを見送っていた。


◇◇◇◇◇


セレモニーが進む中、とりあえず俺は提供されている料理に専念していた。高級食材、王都一流の料理人が振る舞う料理の数々に舌鼓が止まらない。葡萄酒にエール、フルーツも堪能しながら俺は壇上を見ていた。


「我々が待ち望んだ希望! 我々の光明! ついに、勇者が現れた!」


国王なのか、王冠を被る白ひげのおっさんが演説を始めていた。隣にはクレアが立っている。キョロキョロしながら、どこか落ち着きが無いように見える。流石にこの舞台では緊張するのかと、俺は少し驚いてしまう。


「さあ! 勇者クレア殿! この場にいる皆に言葉を!」

「……」


国王と目を合わすクレアが固まるのが、ここにいる俺から見ても分かる。しばらく続く沈黙の時間。俺だったら逃げ出すなと思っていたとき、クレアが言葉を発した。


「私が勇者クレアです! 魔王討伐は任せてください! 私と家来であるレオンがいれば問題ありません!」


いつから家来になったんだか不明だが、クレアの一言と指す方向、つまり俺に視線が集まる。キョロキョロしていたのは、俺を探していたのか……。完全に巻き込まれたと、俺は瞬時に悟った。


◇◇◇◇◇


「おい! いつから俺が家来になったんだ!」

「さっきだけど」

「……」


ハラスメントという概念が、この世界に無いことを俺は悔やんだ。セレモニーが終わり、宿泊施設に向かう移動馬車の中、先程の発言の真意をクレアに尋ねた。


「私も巻き込まれた被害者よ? 勇者なんてまっぴらよ。なら、レオンを巻き込んでも構わないわよね!」

「理由になっている気がしないんだが……」

「私が『勇者』の業から逃げられないんだったら、仲間を増やすべきだと思わない? レオンを『勇者の家来』って業で縛るのもありでしょ」


とんでもない人物に勇者の称号が与えられたもんだ。俺は深いため息をついていた。


「とりあえず、『旅は道連れ』って言うじゃない?」

「分かった、もういい……」

「フフ……。理解が早くて助かるわ!」


世の中、諦めることが肝心なときもある。言葉の通じないモンスターに、説得は無意味。俺の心は折れていた。


「なあ、この後はどうするんだ?」

「飲み直しのお誘いかしら?」

「バカか……。何を目的にするのかって話だ」

「照れなくてもいいのに、フフフ……。そうね、この王都武闘会なんてどうかしら?」


渡された一枚の用紙。ゲームの中でも武闘会があったなと、俺は思い出していた。大会の優勝商品が凄い記憶が蘇るが、こちらの世界ではどうか。


「おおっ!!」


俺は『最上級の武具を進呈!!』という文字に驚いていた。レベル1の俺では絶対に買うことが出来ない一品。見た目も華やかであろう。


「調度いいでしょ? 勇者の推薦があれば出場できるわよ……フフ」

「クルア、どこまで計算してるんだ……」


ファンタジーの世界に来たのだから装備も楽しみたいという、ゲーム好きな俺の心があるのも事実。クレアに関与せずに健全な生活を送りたいという、平穏を願う俺の心があるのも事実。俺は、相反する心を天秤にかける。


「頼む!! 出場させてくれ!」

「交渉成立ね!」


大鎌を手に持つ死神が目の前に現れたのは、錯覚であろうか。俺は色々と諦め、流れに身を任せることにした。

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