第15話 帰還

「何か凄い勢いでレベルがあがったわね……」

「ちょっと、やりすぎな気もするが……」


ここまで序盤でレベルが上がるというのは、ゼオンタクティクスでも無くはない。そう感じるのたが、実際に自分の身に起こるとにわかに信じがたい。女神の介入でもあるのではないか。


「それに、この金塊……ヤバくないっ!?」

「何か、とんでもない量だな……。売ったら、どうなるんだ?」

「少くとも、一生遊んで暮らせるわ……。フ、フフッ! ショッピングも高級料理に、旅行三昧よっ!」

「……。目的を見失うなよ……勇者だろ……」


流石に俺も突っ込まずにはいられなかった。とばっちりで勇者になったような感じもするから、可哀想とも感じるが、俺が楽して生きるためにもクレアには勇者でいてもらわないと困る。


「とりあえずハマに戻るか」

「あ! なら、さっき覚えた技能スキルを使ってみたい!」

「いいけど、何だ?」

「瞬間移動よ!」


便利な技能スキルを身に付けたものだと俺は感心していたいた。頷いていると、クレアが俺の手首を掴んできた。


「行くわよ! 瞬間移動!!」

「何となく、嫌な予感が……」


クレアの魔力が、俺を含めて回りを包み込む。次の瞬間、嫌な予感は的中した。


――ズガァッッッッッン!!!


頭に痛みを感じると思ったら、俺は洞窟の天井に突き刺さっていた。幸い、頭も頑丈。大したダメージはない。見事なまでに脳筋ステータスに振り抜いた成果かもしれない。


「きゃあッッッッ! 高いっ! 落ちたら死んじゃう!!」


騒がしくて、おちおち突き刺さってもいられないな。俺は右手首にぶら下がるクレアの手首をしっかり掴み返す。左手で天井を押し、頭を引っこ抜く。当然、自重で落下していくのだが。


「人殺しッッッッッ!!」


クレアの戯言を無視する。殺しかけたのは、お前が先だと言ってやりたい気分だが、俺はあえて言葉を飲み込んだ。


――ズドッッ


重い重低音を響かせ、俺は着地した。クレアは、お姫様抱っこをする形で抱えている。


「レオン……。殺す気だった?」

「は? 助けただけだが……。さっさと降りてくれ……」

「あと、しれっと私のお尻……。うぅ……お嫁に行けないわ……」

「おい……」

「冗談よ! アメリアには黙っておくから、口止め料よろしくね!」

「クレア……。本当に、お前は勇者か?」


不敵な笑みを浮かべるクレアを見ていると、どこまでが計算か分からない。技能スキルの特徴などはわかるはずだ。もしかしたら……。怖くなり、俺はその先を考えないようにした。


◇◇◇◇◇◇◇


「ハマに着いたわね!」


洞窟の外に出た俺たちは、瞬間移動の技能スキルを使い、無事にハマに帰還した。すぐに、町長に報告に向かうことにした。


「いや、流石だ! 勇者の一行ってのは凄いな! ガハハ! こんな短期間で解決するたぁ、見事だわ!」

「そんなことありませんわ! ウフフフ!」

「それじゃあ、これが今回の謝礼……」

「ハマンさん! お待ち下さい。謝礼は、困っている町の人でお使いください! 仮にも私は勇者! 困っている方の味方ですわ!」

「なんて懐の深さ! 若い嬢ちゃんと思ったが間違いだな! 恩に着る! 謝礼は町で使わせてもらう! その代わり、嬢ちゃんがこの町に来たときは、俺が漁った新鮮な魚をご馳走するわ!」


俺は一体何の茶番を見せられているのだろうか。口を挟む隙も見当たらない。まあ、流れに身を任せようと考えていた。暫くすると二人のやり取りは終わり、ハマの町を後にすることとなった。



◇◇◇◇◇◇◇


「なあ、クレア? 何でさっき謝礼を断ったんだ? 意外と良いとこがあるじゃないか」

「甘いわね! いいかしら、レオン。目先の利益に囚われてはダメよ!」

「善意じゃないのか……」

「お金はもう十分よ! となれば、あとはよ! 漁師だけが食べている、市場に出ない真に美味しいもの! 未来への投資! ウフ! ウフフ!」


いつの間に考えていたのかと、俺は少し怖くなる。しかし、とはどういうつもりだろうか。俺が倒したモンスターの金塊なんだが……。どこの世界も、女は怖い。俺はそう感じざるを得ないでいた。


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