即死勇者は女神の加護を受けられず、サブキャラとして成り上がる〜復活への挑戦、己が為の物語〜
南山之寿
1章 プロローグ
第1話 召喚
「嗚呼! 勇者よ! 死んでしまうとは……」
俺は聞き覚えのある声を耳にしていた。そして台詞を聞いて理解する。嗚呼、死んだのかと。これで二度目。この世界では一度目だが。こうも短期間で死を経験するというのは、珍しいのかもしれないな。まあ、どうせ神様の力や魔法か何かで生き返るんだろうけど。
「って、あれ? あれれ? あなた……教会には行ったのかしら……? 私、確かに伝えたわよね……」
俺の目の前にいるのは、たしか女神だったか。しかし話を聞いていると、何だか雲行きが怪しいんだけど気のせいか……。何かを必死に思い出そうとしているのか、腕を組んで唸っているのがちょいとばかり引っかかる。
「うん! ごめん! 無理みたいねっ!」
何がごめんなんだ。何が無理なんだ。訳が分からない。呆けて立ち尽くすしかないではないか。しばらく前にもこの場所で同じように立ち尽くしていたなと俺は記憶を呼び起こす。
◇◇◇◇◇◇◇
――数日前
「
「仕方ないだろ。急に、こっち方面に出張が入ったんだから。宿泊代をケチりたい会社が悪いんだ」
就職して5年。大学生活を入れると9年か。実家を出て一人暮らしをしている期間が長くなったもんだ。たまたま出張先が実家方面だったから、会社からは実家に泊まる様に言われる始末。出張の楽しみが半減だ。ただの帰省とさしてかわらないじゃないか。だが結局、俺は自腹を切るのもバカバカしく感じたので実家に泊まることにした。
久々の帰省。盆暮れ正月、時折開かれる同窓会。何かしらのイベントが無ければ、まず帰省はしない。今この家に住んでいるのは両親と妹だ。俺の部屋は、押し入れとして使われている。収納場所が少ないマンションだから仕方がない。幸い布団をひく位のスペースは確保できるが。
久々の自分の部屋は、落ち着かない。ここはもう俺の部屋であっても、俺の居場所ではない。やはり出費を惜しまず、営業先の最寄り駅に建つビジネスホテルに止まれば良かったと後悔が湧いてくる。実家から40分位の距離だ。
俺は荷物を起き、脱いだスーツを壁にかける。部屋にはもう机や本棚などはないが、寝間着に使えるスエットや漫画にゲーム機など多少のものは残っている。俺はクリアケースに入っていたスエットを取り出し着換えた。防虫剤の匂いの強さは、帰省していない時間に比例する。ふとクリアケースの奥に目を向ける。携帯ゲーム機が入っていた。高校生の頃にはまっていたやつだ。
『ゼオンタクティクス』
RPGとアクション、そしてモンスター育成に恋愛ゲームがごちゃ混ぜにされたゲーム。一部のコアなファンを除いて支持する者は皆無。クソゲーという部類に片足を入れている。いや、浸かっているの間違えかもしれない。俺は途中で放り投げることなくやり遂げた稀な部類であろう。売却したと思っていたが、まだ実家に残っていたのか。懐かしくなり久々に見てみようと思い、本体に電源アダプターを差し込んだ。
――そして俺は、ゲームを起動した。いや、起動したはずだった。
意識が朦朧としては……いない。目も覚めている。腿をつねれば痛みも感じる。停電かと思うが、どうも違う。手にしていたゲーム機もなければ、座っていたはずの布団もない。俗に言う、転生、転移、召喚。非現実的な何かが起きたというのだろうか。暗闇から急に光が差す。すると、俺は見知らぬ部屋にいた。
「よくぞ参られました! さあ、勇者よ! こちらへ!」
俺はあたりを見渡たす。豪華絢爛な内装の部屋。絵画と彫刻がきれいに並ぶ。海外旅行で見た北欧の宮殿みたいだな。もともと冷めた性格のせいなのかもしれない。驚きも興奮も恐怖も、俺には無かった。目の前にいる女性が、俺に口を開ける間すら与えずに話を続けてくる。
「私はこの世界の女神ダリア・ノア! 貴方を勇者として
よくわからない。が、ゲームのオープニングとお馴染みの展開ではないか。俺は不思議な感覚に包まれながらも情報が欲しいと思い、ゆっくりと目の前にいる女神に質問を投げかけた。
「ここは何処なんだ?」
「ここはモルベガという世界よ。貴方に分かりやすく言うならば、ゼオンタクティクスの元になった世界。貴方の世界でいうゼオンタクティクスというお話は、この世界での経験を元に創られたものみたいね。あまり似ても似つかないけど……」
以前も勇者を召喚したというのか。しかもその勇者は、帰還している。死んで魂が召喚されるわけでは無いのかもしれない。巷で流行っている転生モノでは、主人公の死や急な転移がきっかけで異世界生活が始まる。俺は死んでこの世界にいるのか、まずは確かめようとしていた。
「どうやって俺を召喚したんだ? ひょっとして、俺は死んだのか?」
「死んではいないわよ! 貴方の記憶と魂の複写。それと、ゼオンタクティクスに関わる記憶の領域だけぶっこ抜いて召喚したの。今回はゲームがトリガーね。元の世界で貴方は普通に暮らしているわ。切り離された意識領域があるという意味から考えると、本来の貴方は死んだのかもしれないけど」
訳がわからない。ここにいる俺が生きていて、元の場所にいる俺は死んでいるのか。平行世界とでもいうのか。メタバースの世界とでもいうのか。答えを求めようとしたが、それは遮られた。
「もう時間切れ。貴方に、この世界での肉体を与えないといけないの。そうでないと消滅してしまうわ」
謎は自分で解けと言うのか。仕方がない。ゲームなり異世界物語に近い世界であるならば、また女神にあうこともあるだろう。俺は、分かったと返事をした。
「貴方の名前は?」
「
「あ、時間が……」
なぜそんなに急ぐのか。わからないが、仕方がない。既にわからないことのオンパレード。成るように成れとは、よく言ったものだ。時間切れなのか、俺の意識が薄らいでいく。最後に、女神が何かを伝えてきたがよく聞き取れない。
「目が……必ず…………祈りを……!」
混濁する意識。世界が漆黒に飲まれ、静寂に包まれていった。大事なことなのかよくわからない。大事なことなら、もう少し早くに言うだろう。俺は自分を納得させていた。
この後俺は目が覚めた後に王宮に呼ばれ、勇者として魔王退治に向かった。そしてRPGの基本。レベル上げと資金稼ぎをしていた…………はずなのだが。俺の目の前では、女神がお決まりの台詞を口にしている。付け加えられた言葉は、いまいち理解できない。
「嗚呼! 勇者よ! 死んでしまうとは……って、あれ? あれれ? あなた……教会には行ったのかしら……? 私、確かに伝えたわよね……」
「いや、聞き取れなかったし。教会は、行った記憶が無いな……」
「うそっ!」
「いや、本当だって」
「お願い! 嘘だと言って!」
「いや、本当なんだから仕方がない」
仮にも女神だろとツッコミたかったが、
「なあ、あんた大丈夫か?」
「いや、もう無理なんですけど!」
「何が無理なんだ?」
「貴方を生き返らせることがですっ!」
「えっ??」
普通この手の世界って、生き返りありきで進むのでは無かったのか。この後どうなるかは、やはりよくわからなが仕方がない。叫んでもしょうがない。目の前で叫ぶ女神を見ていたら、俺はすっかり落ち着いていた。自分よりパニックに陥った者を見たとき、人は案外冷静になるものだ。
「きゃぁぁっ!! しまったぁぁぁぁぁっ!!!」
女神の悲痛な叫び声は、暗く広がる空間に呑み込まれて行くような気がした。
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