第8話 装具新調
ルルマーに到着し、俺は馬車の苦しみから解放された。州都のことだけはあり、人通りも多い。服装も洗練されている。目を引く装備の冒険者達も見かけることができた。
「お客さん、助かったよ。ありがとう!」
「ありがとう!」
馬車から降りる際に他の乗客と御者からお礼を言われた。前の人生では経験の無いことで、俺は照れくさくもあり言葉を返せなかった。お辞儀をして、その場を立ち去ることにした。
宿屋に向かう前に、俺は冒険者ギルドに向かう。明日の試験の参加確認と、盗賊団の捕縛に関する謝礼を貰うためだ。しばらく歩くと、目的の冒険者ギルドに到着した。
「ご用件は何でしょうか?」
ギルドの建屋に入ると、受付けの女性に声をかけられた。受付けカウンターには、四名の職員が待機している。他の三名は、冒険者の対応中。混んでいるのではと考えていたが、思いの外、待ち時間なくことを済ますことができそうだ。
「明日の試験を受ける者で、確認に来た」
「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「レオン・トラジールだ」
「少々お待ち下さい……ええと……はい! 確認が取れました。明日の試験、お待ちしてます」
「あと、この謝礼金を受け取りたいんだ……」
何の疑いもなく、謝礼金が貰えるのか。俺は少しだけ緊張していた。衛兵から渡された用紙を受付けの女性に渡す。
「確認します……。最近、街道で暴れていた盗賊団ですね。これを一人で……? 凄い!!」
受付けの女性が目を見開いて驚いている。それもそうだろう。冒険者にもなっていない様な少年が、一人で捕まえたなんて信じ難いはずだ。俺は疑われていないか、ビクビクしていた。
「将来が有望ですね! こちらが謝礼金になります」
すんなりと謝礼金が渡されたた。こんなものなのかもしれない。受取った謝礼金は、三万ルピス。『ルピス』はこの世界の通貨単位で、千ルピスあれば一日暮らせる。思わぬ臨時収入に俺は喜びを噛み締めていた。旨いものが食える。装具も買える。俺は謝礼金を受け取ると、直様、装具屋を探すことにした。
装具屋に着き、俺は店内を物色する。装具の着用にレベル制限は無いのだが、販売にレベル制限がある。レベルは、言わば冒険者の評価。レベルに見合った装具しか購入できない。レベル10までは、初心者用の装具という具合だ。このシステムを知ったとき、予測はしていたものの、俺は愕然とした。永久的に、見た目が貧相だ……。気を取り直し、俺は装具を探す。
初心者用のコーナーで、俺は黒色のハイネック型ノースリーブを選ぶ。上半身はピッタリとした服にしする。鍛え抜かれた体のシルエットを浮かび上がらるのが狙い。肩周りや二の腕の筋肉が露出して、セクシーさを感じる。さらに、黒色のワイドパンツ。ニッカポッカ風で、全体のシルエットが三角形なる。たくましい漢らしさを演出する。
全身黒ずくめになってしまった……。忍者じゃあるまいし……。挿し色にと、白色のベルトを購入。靴も新調する。茶色の革のブーツ、俺の好きなプレーントゥを選ぶ。
防御力という目に見えた形で効果は現れないが、それでも冒険者といえば装具。そう考える俺には楽しい時間であった。支払いを終え、俺は店を後にする。まだ懐は暖かい。そういえば、俺はまだ宿屋を決めていなかったことを思い出す。せっかくだから、一流な宿屋に泊まろう。
『ロイドコンチネンタル』
ルルマーでも最高峰の宿屋。俺には、高級旅館という印象だ。一泊一万ルピスというのだから、恐ろしい。この世界で生まれて初めての贅沢。楽しんでも構わないと、俺は考えていた。受付けを済ましたあと部屋に案内される。サウナ付きの客室。湯船の文化があまり無いのが悲しい。腹が減っていることもあり、俺は食堂に向かった。
食堂には、各地の伝統的料理、新鮮な野菜・果実、焼き立てのパン、スープなど様々な料理が並んでいた。鼻に入ってくる、艶やかな匂いは、それだけで五臓六腑を満たしてくれる。ブュッフェスタイルの食堂は、この世界では珍しいと思う。鉄板では分厚い肉の塊が焼かれている。その反対側では、生け簀から魚が取り出され調理されている。ライブキッチンもあるのか……。
「良し! 取り敢えず、食うか!」
俺は席に着くと運んできた料理を、勢い良く食べ始めた。肉を頬張り、パンにかぶりつく。滴る肉汁、柔らかなパン。するりと、俺の身体の中へと流れこむ。肉の脂からは、噛みしめるたびに広がる甘い香り。肉の香りとパンの芳醇な香りが幾重にも重なり、俺の身体を駆け巡る。
――旨い!!
言葉を口にはしないが、俺は生きていて良かったとさえ思ってしまう。
つぎは、スープだ。野菜、魚介類の出汁が、充分にしみ出ている。旨い!口の中で、大地の女神と猛る海神が、熱い抱擁を交わしている。貝柱の歯ごたえ、刻まれたた根菜の甘み。心だ!心で飲めと、語りかけてくる気がする。
伝統的料理も、歴史を感じる味わい深さがある。魚の生身を、野菜と酢で和えたサラダ。カルパッチョに近いな。酸味と野菜の甘味、そして魚の旨味。海と離れたルルマーで食べる魚は贅沢だ。
根菜類を素揚げしたものに、濃厚なチーズをかけ、肉で包み混んだ料理。一噛みすると、俺の目の前に牧場が広がる。大地の恵みを食す牛、その牛の乳から作られたナチュラルチーズ。さらに、牛自身の肉。俺が今食べているものは、野菜でも肉でもない。大地そのものだ。
空腹と心を満たし、俺は部屋に戻る。そして、頃合いを見測り備付けのサウナに入ることにした。旅の疲れをきれいに流し、明日に備えよう。
俺は夜空を見上げながら、整っていた。
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