文化祭間際の放課後

 いつも通りの帰りのHR、俺は窓際の特権である木漏れ日と温い風を浴びながらウトウトと舟をこいでいた。


 教壇では担任が何か言っているが、眠気に支配された俺の頭の中には全くと言っていいほど理解できなかった。それが15分か20分くらいした後、「起立!」の声がしたので、寝ぼけ眼のまま立ち上がり緩慢に頭を下げると、大きな欠伸がでてしまう。


 これであとは真理を迎えに行って、バイトに行けば今日も終わりだ。明日は週末だし、久しぶりにゆっくりできる。


 そんなことを思いながら鞄を肩に掛けると、「あっ、加藤君ちょっと待って!」と声をかけられる。


 振り向いてみると、長屋がちょっと慌てた様にこちらに向かっていた。


「やっぱり眠ってたんだね……。HRの話聞いてなかった?」


「ああ、ごめん聞いてなかった。何か言ってた? 委員会とか?」


 確か自分は図書委員だったが、当番はしばらくなかったはず。もしかしたら急な要件でも出来たのかもしれない。


 そう思ってきくと、長屋は少し呆れた様に「いや文化祭のこと。これから僕たちの班は打合せするから」と苦笑い気味に言った。


 ……全く聞いていなかった。


 俺は少し考え込み、「先に真理に伝え行ってもいい……?」と聞くと、「それぐらいならいいよ。先に始めてるから早めにね」と呆れ顔を隠さずにそう言われた。


 以前にも居眠りして痛い目に遭ったことがあるような気がしたので、これからは少し自重しようと心に決めた。


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 「ふふん、私を置いて楽しむなど許されないのだ!」


 机を4つ並べて互いに顔を突き合わせている中、外様の真理は声を張り上げる。


 真理に事情を説明すると、「私を待たせるなんて信じられない!」と駄々をこねられたので連れてきたが、間違いだったかもしれない。


 俺は溜息をしながら、真理に向かって「今回は部外者なんだから遠慮してね」と小声で言うと、「む~、善処する!」という後ろ向きな言葉をいただいた。


「みんなごめんね、真理連れてきて」


「ううん、いいんだよ。どうせ大した話するわけでもないし」


「はい、気にしないでください」


「というか真理ちゃん久しぶり! 元気してた?」


「うん! 怪我以外はピンピンしてるよ!」


「あはは、それ大丈夫じゃないじゃん!」


 ほのぼのとした会話、記憶にある限りでは真理たち以外としたのはずいぶんと久しぶりだ。中学では噂が広まっていたし、高校では言わずもがなだ。これも真理の人徳のおかげかもしれないが、話し合いにはちょっと邪魔だろう。


「真理、今から話し合いするからちょっと我慢しててね」


 俺が強めにそう言うと、真理は「ん~、早くしてね!」と少し不満そうに押し黙った。


「じゃあ、話し合い始めようか。大したことじゃないからすぐ終わるかな……?」


 そこからは先ほどの喧騒もどこへやら、真面目な会話が始まった。


 どうやら話を聞いてみると、俺はどうやら小道具を調達する班らしい。当日にあまり仕事はなく、事前準備がほとんどとのことだ。今日は必要なものの洗い出しだけで、それもほとんど終わっているので最終確認のみらしい。楽な班になって本当に良かった。


 真理をちらりと見てみると、ちょっと不満げにスマホを弄っている。


「じゃあ、他には大丈夫かな。当日必要なものが出たら僕に連絡してもらうようにしてください。経費管理も兼ねているので」


 長屋のその言葉を皮切りに、話し合いは終わりを告げた。


それを今か今かと待っていたであろう真理は、「じゃあ、マサ帰りマック寄ろ!」と声をあげる。


「真理ちゃん、本当に加藤君と仲いいんだね」


「そうだよ、私とマサほど仲いいのも珍しんだから!」


「へー、ていうかマック行くんだ。私も行っていい?」


 俺はその言葉にドキリとする。


 真理たち以外の人たちと一緒にいると、要らぬ誤解を受ける。先日の一件で色々なことを知ってしまった身としては何とか回避したい。そう思って焦って周りにおろおろと視線を向けると、長屋と目が合って何故か微笑まれる。


「じゃあ僕もお邪魔しようかな」


 長屋が参加表明すると、もう一人の女子も「いいですね、私も行きたいです」と喜色満面で同意する。


 俺が驚いて固まっていると、「加藤君、思ったより話しやすいし真理ちゃんとのこと聞きたいしね!」と元気いっぱいにそう言われた。


 もしかして俺は思っている以上に嫌われているわけではないのか?


 疑問が頭の中をぐるぐる回っている中、「じゃあ、みんなで行こうか!」という真理の号令と共に手を引かれて、納得していないまま俺は席を立った。

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