七不思議?
「というわけで、七不思議探索ツア~!」
真理が片手をあげて、勢いよく叫ぶ。周りの生徒たちは何事かとこちらを向くが、騒ぎの中心が真理なのを確認するとすぐにいつものことかと受け流した。
「なんか二人ともテンション低くない? 七不思議だよ、テンション上がんないの!?」
ちなみに今回のメンバーはいつも通りの真理と苦笑いのミーシャ、そして俺だ。美里さんは部活のため、今回は不参加だ。
正直面倒臭いので一度断ったのだが、いつものごとく真理の強引さによって参加させられてしまった。
「私のために学校紹介してくれるって話だったと思うんだけど、どうして七不思議探索ツアーになってるの?」
それは俺も疑問だ。そもそも今日はミーシャに学校の案内するという趣旨だったはずだが、いつのまに七不思議などというものが出てきたのだろうか。というか七不思議なんてあったのか、この高校。
俺とミーシャが真理に目を向けると、真理は自慢げに腕を組んで、「ただの学校案内なんてつまらないでしょ!」と割れんばかりの笑顔を向けてきた。
相変わらずだが、どうしようもないなこいつは。
俺は堪えきれずため息をついてしまって、ミーシャもちょっと呆れ気味だ。
しかし、真理は気にした様子もなく「じゃあいくよ、最初は写真部!」と勢いよく宣言して歩き出した。
俺たちもしようがないのでついていくと、ミーシャが「そういえば、七不思議ってどんなのがあるの?」と真理に聞いた。
「ん? 私も先輩に聞いただけだけど、確かね———」
真理はそう言って、七不思議をしゃべり始めた。
1.隠された暗室
2.開かずの旧校舎
3.動く銅像
4.喋るトイレ
5.歌うピアノ
6.隠された6つ目
7.池の悪魔
「6つ目ってなんなの? 隠された6つ目って意味わかんなくない?」
俺がそう尋ねると、「それは思った。でも、七不思議ってそんなもんじゃないの?」と事もなげに返された。
相変わらず適当なものだ。別にそれはそれでいいのだが、付き合わされる方は溜まったものではない。
「最初に写真部ってことは、1から順に回っていくの?」
「うん、そうだよ! だから下校時刻までに間に合わせなきゃだから巻き目で行くね!」
ということは『隠された暗室』から回っていくのか。まあ確かに暗室と言えば写真だ。今はデジタル中心といえど、コアなファンだと未だにフィルムだし、写真部がいまだに使っていると考えても不思議ではない。
「ちなみに今日中に7つ全て回るつもり?」
「あったりまえじゃん!」
俺がまさかと思って聞いてことを、当たり前と返す真理はやはりただものではないと思う。
俺とミーシャはまたもや同時に苦笑して、真理の後を追いかけていった。
「ミーシャって部活とか入らないの? 」
「今のところ考えてないかな。家で運動しているし、家事とかもしなくちゃいけないから」
ちなみに俺と真理も部活に入っていない。俺はいいとして、真理は入学当初は色々な部活から勧誘を受けたらしいが、結局どの部活にも入らなかった。理由は『人間関係が面倒くさい』から。俺はよく知らないが中学生のころになにかあったらしい。
「運動って何かスポーツでもやってるの?」
「というより格闘技かな。お父さんが休みの日に教えてくれるの」
「えっ、なにそれ格好いい! それって私にも教えてくれないかな!?」
「……真理、格闘技やる気なの?」
「……本気なら聞いてみるけど、真理ってそういうの興味あったんだ」
「最近運動不足だと思ってたしね~、ちょっと興味あったんだ!」
真理が元気いっぱいでそう言ったが、ミーシャの方を見てみるとちょっと苦笑い。確かに急にそんなこと言われても困るだろう。
「おっ、というか写真部ここじゃん。ねえくーくんいる~?」
真理は豪快に扉を開き、中に向かって叫ぶ。そうするとどこかで見たことのある男子が現れる。
真理はその男子に事情を説明すると「えっ、暗室入ってみたい? 別にいいけど……」とあっさり許可が下りた。
「いきなりごめんね、くーくん」
「いやいや、別に大丈夫だよ。でも、今度コンクールがあってモデルやって欲しいんだけど……」
「オッケー、詳細はラインして!」
写真部に唯一いた部員は真理の知り合いだったらしく、暗室に入るための許可は結構あっさりとれたし、何より隠されてはいなかった。
「ていうか、何で暗室なんかに入りたいの? こう言っちゃなんだけど、暗いだけの部屋だよ?」
「今ミーシャの学校案内してるの」
「学校案内で暗室来るの……? ちょっとニッチすぎない?」
「七不思議巡りもしてるの! 知ってる? 七不思議!」
「そういえば、先輩が話してたような……?」
どうやら彼の反応を見る限り、七不思議というのはあくまで噂レベルのものらしい。誰でも知っているわけでもないが、知っている人は知っているというレベルなのだろう。
「マサ、ミーシャ、入っていいって。早く入ろう!」
真理はそう言って、自分だけ先に入っていってしまう。俺とミーシャも続けて入ろうとすると、「加藤君、ちょっとだけいい?」とくーくんと呼ばれた彼が話しかけてきた。
ミーシャは俺の方をちらりと見てきたが、俺が手で制すとミーシャは軽く頷いて、暗室に入っていった。
「えーと、何か用?」
残念ながら彼に声を掛けられる理由に見当がつかない。そう思って聞くと、彼は苦笑いして口を開く。
「用ってわけでもないんだけどね。加藤君はどうして真理さんと仲良くしてるの?」
俺はつい首を傾けてしまう。なぜ彼はそんなことを気にするのだろうか?
「加藤君って誰ともかかわりたがらない、というか面倒臭そうな感じじゃん? だとしたら、学校案内とか嫌じゃないの?」
ふむ、まあ彼の言っていることは正しい。あまり俺は何かをするのは好きじゃないし、ぶっちゃけ面倒くさいと思っている。学校案内だって真理以外から誘われたら、何か理由をつけてサボるかもしれない。
「別に理由なんてないよ。誘われたから一緒に行ってるだけ」
これも正しい。他の人にどう思われてるか分からないが、俺は基本的にNoと言えない日本人なのだ。
「そっか。ごめんね、時間取っちゃって」
彼は苦笑してそう言った。
「暗室の中の備品とかも見てもらって構わないけど、元の場所に戻すようにしてね。僕はちょっと顧問のところに行ってくるから適当に帰って大丈夫だから」
「わかった、ありがとう」
「いやいや大したことじゃないよ」
彼は笑って、写真部の部室から出ていった。
俺は彼を見送ると、暗室の扉を開けた。暗室の中は暗いが赤色のライトが灯っており、周りが見えないというわけではなかった。中は意外と広く、教室の4分の1程度の広さがあった。
真理とミーシャは中を色々と物色していた。フィルムや印刷された写真、暗室と呼ばれているが、カメラ部の物置としても使われているみたいだ。
俺は暗室の壁をところどころ叩き、奥に何かないか探す。七不思議のひとつ目は『隠された暗室』、ほかに暗室が隠されていないかを探すためだ。しかし、結果はお察しの通り空洞などは見つからず、徒労に終わった。
少し残念に思い、真理とミーシャの方を見てみるとアルバム片手にキャッキャ言い合っていた。なるほど、サボりですか君たち。
「なんか見つかった?」
俺が声をかけると真理とミーシャは揃って首を振り、「ぜーんぜん見つかんない!」と叫ぶように言った。
「でも、ちょっとだけおかしいもの見つけたかも……?」
「おかしなものって?」
「これこれ!」
真理がそう言って差し出してきたのはアルバムのような写真集だった。見てみると、写真部の過去の写真をまとめたもののようで、写真の出来が他のものより良いものが多いようだ。
「これ別におかしなところなくない?」
俺がそういうと、ミーシャが「私もそう思ったんだけど」と真理のほうを向く。
「これさ、写真の日付も書いてあるんだけど、7年位前のしかないの! 写真部ってお兄ちゃんが入学したときにはあったから少なくとも9年前からあったはずなのにおかしくない!?」
「そのアルバムを作ったのが7年前だったんじゃないの?」
「私もそう思った! でも、この部屋のもの大体漁ったけど、7年以上前のものが一個もなかったんだよ!」
ふむ、確かにそれはおかしい。写真部は9年前からあったのに、この物置の中には7年以上前のものは存在していない。まあ、順当に考えれば7年前に大掃除かなにかで一斉処分したとかがオチのような気がする。
「でも、七不思議とは関係ないでしょ? さっさと次いこう」
「む~、なんか面白そうなのに~」
ぶー垂れている真理を俺とミーシャで引きずって暗室を後にする。部室には誰もいなく、そのまま帰っていいといわれたので扉だけはきっちりと閉めて部室を出た。
「真理、次はどこに行くの?」
ミーシャが真理に尋ねると、「次は2つ目と3つ目同時に行くよ!」と元気よく答えた。
確か2つ目と3つ目は『開かずの旧校舎』『動く銅像』だった。旧校舎と銅像はすぐ近くにあり、同時に行くというのはとても効率がいい。
下駄箱で靴を履き替え、銅像へ向かう。
銅像のある旧校舎は少し離れており、下駄箱から5分ほどの距離にある。
銅像につくと真理は大きな声で「これが学校創立者の像!」とミーシャに紹介する。
この銅像は創立者のものだったのか、知らなかった。
「ちなみに後ろの建物が旧校舎だよ! 私も入ったことなくて、お兄ちゃんが言うには10年以上前に立ち入り禁止になったんだって!」
「へえ、でもどうして今でも残ってるの?」
「う~ん、なんでも取り壊しにするための予算が足りないとかって聞いたよ! 」
何とも世知辛い理由だ。
そこでふと疑問に思ったことを聞いてみる。
「真理だったら『旧校舎の中入ろう!』とかいうと思ったけど、今回は妙に大人しくない?」
真理だったら立ち入り禁止とか気にせず入りそうだが。そう思って聞いてみると、「私もそう思ってた……」と苦々しげに言った。
「でも、鍵がないか先生に聞いたときに『お前、鍵がなければ窓割って入ればいいやとか思ってないだろうな』って言われちゃって……」
先生グッジョブ、俺は心の中で先生を称賛しておいた。
これ以上は入れないので、次の七不思議に移動する。
「流石に女子トイレはいるのはちょっと……」
「え~、誰もいないし良いんじゃん!」
「真理、雅人だって男なんだから流石に無理よ」
「ミーシャまで~」
はてさて、女子トイレの前で騒ぐ俺たち不審者一行。
真理はどうしても俺を中に入れたいようだが、俺としては断固拒否だ。何故か知らないが危ない奴認定されている俺が女子トイレに入る所を見られてしまったあかつきには、もれなく犯罪者扱いされてしまう。
嬉しいことにミーシャもこちらの味方のようで、真理は渋々ながら俺を入れることは諦めたようだ。
「何かあったら絶対マサも中に入ってよね!」
真理はそう言い残して、ミーシャに引きずられるようにしてトイレの中へと消えていった。
真理の我儘には慣れたつもりだったが、あながちそうでもないらしい。
俺はすこし溜息をつき、壁へともたれかかった。
4つ目の不思議、『喋るトイレ』
真理から聞いた話だと、「北校舎3階の女子トイレは一人で喋りだす。しかし、絶対に返事をしてはならない。だって、死にたくはないでしょう? 」といったいかにも怪談らしいものだった。
というか、真理の言っていた七不思議には少し違和感がある。具体的に何がと言われれば言葉に詰まるが……。
そんなことを考えてしばらくすると、残念顔の真理と苦笑いを浮かべるミーシャがトイレから出てきた。
なんとなくミーシャの苦笑いが見慣れてきた。もしかしたら苦労人タイプなのかもしれない。
「どうだった?」
俺がそう尋ねると、「別に何もなかったよ。全然喋らないし、普通の汚いトイレだった……」と真理の元気がなさそうな声で返事がきた。
「七不思議なんてそんなもんじゃないの?」
「む~、次こそは絶対に捕まえてやる!」
おやおや、どうやらいつの間にか七不思議探索ツアーからゴーストバスターズに代わっていたようだ。というか冗談じゃない、ただでさえ面倒くさいのに……。
「真理、七不思議なんてそんなものよ。というか、今日は私を学校案内してくれるはずでしょ?」
「そうだよ、今日の主役はミーシャなんだからきっちりエスコートしてあげて」
俺とミーシャがそういうと、真理も「確かにそうだよね……。よし、じゃあ次の七不思議へレッツゴー!」なんていって歩き始めた。
あわよくば七不思議探索も辞めて欲しかったがしょうがない。
俺とミーシャは真理の後に続く。
確か次の七不思議は『歌うピアノ』だ。これもトイレと一緒で怪談らしい怪談といえるだろう。詳細はよく分からないが、夜中になるとピアノが鳴りだすとかそういう類のものだと思う。
そうして件の音楽室につくと、真理は自慢げに「ここが七不思議5つ目、『歌うピアノ』がある音楽室だよ!」と俺たちに紹介する。
しかし、真理は紹介しただけで一向に中に入ろうとしないのだ。
「ねえ、真理。中には入らないの?」
ミーシャも疑問に思ったのか、真理に尋ねる。
すると真理は「実は先生に『七不思議なんてもののために音楽室の鍵を貸せるわけないだろう!』って怒られちゃって。中には入れないんだよね!」と照れたように答えた。
まったく照れる場面ではないが、というわけでここは本当に音楽室の紹介だけになった。
次の七不思議は『隠された6つ目』なのだが、真理曰く「よく分かんないからパス!」だそうだ。
というわけで最後の七不思議『池の悪魔』にやってきたわけだが、こちらも真理曰く「なんか22時22分に池を覗き込むと、引きずりこまれるだって」というわけらしいが、そもそも学校に22時までいるほうが問題だ。
ちなみに先生に居残りしていいか聞いて、理由を説明したところ「そんなものの為に22時まで俺に残れっていうのか!?」と大目玉を喰らったそうだ。
真理の担任は本当に苦労が多そうだ。
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