うたた寝のお昼ご飯
「そんなことがあったから眠りこけているんですか?」
みーちゃんは少し驚きながらそう言った。
いつも通りのお昼休み、私たち4人は中庭で昼食をとっていた。いつもと違うのはパンを片手に舟をこいでいるマサの姿だけだろう。
みーちゃんは驚き、事情を知っているミーシャは呆れている。私を含めて、その視線はマサへと向いていた。
「私も知らなかったんだけどね、昨日の夜結構呑んだみたい。お兄ちゃんに注意しとかなきゃ」
「真一さんですか……。確かにあの方はお酒強いですからね。さもありなんといった感じですが」
「ん? 美里って真理のお兄ちゃんと知り合いなの?」
「小っちゃい頃は真理ちゃんと一緒によく遊んでもらいました。大人になってからはあんまりですが、よく酒の席でお父様が潰されているのは見ましたね」
みーちゃんはちょっと苦笑い気味。確かみーちゃんの家はあんまりお酒に強くない。きっと酔いつぶれたお父さんの姿でも思い出しているのだろう。
「まあ、なんにしても自業自得だよ。私にはお酒飲むなっていったのに自分は呑んでいるんだから」
私はちょっとした恨みを込めて、そう吐き捨てる。
本人には決して言わないが、本人は寝ているのだからいいだろう。というか、そんな楽しそうなところに私がいないことの方が腹立たしい。寝ていたとしても起こして参加させてほしいものだ。
私がそう憤慨していると、疑問顔のミーシャが口を開く。
「……雅人はなんでお酒飲んだんだろうね」
「「……は?」」
思わず私とみーちゃんは呆けた声が出る。
「いや、真理のお爺ちゃん達との呑み会では呑まなかったんでしょ? それなのに真一さんとはお酒飲んだんでしょ? 雅人の性格を考えると、なんか理由があると思うんだよね」
相変わらず疑問顔のまま、サンドイッチに嚙みつきながらミーシャはそう言った。
私はそこで少し考える。
確かにミーシャの言っていることは正しい。マサは意志が固く、あんまり他人の意見に左右されない。だとしたら、急に意見が変わってお酒を飲んでのには理由があって当然だ。
途端に顔が赤くなる。そんな単純なことに気づかず、憤慨していた自分自身に。
「でも、だとしたらどんな理由なんでしょう? というか雅人さんと真一さんって二人きりだとどういう会話するのでしょうか?」
「うーん、私は真一さんのこと知らないからなー」
二人は首を捻っているが、もちろん私にもその答えは分からない。
「お酒に頼るってことは言い難いことでしょうか?」
「この間の一件みたいな? でもそれだと酔いつぶれるまで飲まなくない?」
「確かにそうですね。雅人さんと真一さんの共通事項で、話しにくいことですか……」
二人してうーんと議論に花を咲かせるが、私にはその答えがなんとなく分かっていた。でもそれは自分を過大評価しすぎだし、何より違ったときに恥ずかしい。
思わず私がもじもじしていると、その様子を見て気づいたのかミーシャが「あっ!」と声をあげる。
「分かった、真理のことだ!」
私はその言葉に再度顔が赤くなるのを覚える。
「確かにそれだと話が盛り上がるのも分かりますね。でもなんで酔いつぶれるほど?」
「雅人は恥ずかしかったんじゃない? だって実の兄相手に妹とのイチャイチャを話すなんてさ」
「ふふっ、確かにそうですね!」
二人は楽しそうに話し始めるが、渦中の私は顔を赤らめるだけ。
それがなんだか気に食わなくて、「こらっ! マサ起きろっ!」と大声で発したのだった。
マサはビクッっと体を震わしたかと思うと、突然猫が現れたネズミのように驚いた顔を私に向けてきた。
私がこんなに苦しんでいるというのに……!
八つ当たりだとはわかるが、だからといってこの激情を晴らさずにはおけない。
「私喉乾いた! 今すぐミルクティー買ってきて!」
私がそう怒鳴ると、マサは驚いたように飛び上がると途端に自販機の方に走り出す。
「何ですか? 恥ずかしかったんですか?」
「真理ってそういうところが可愛いよね」
みーちゃんは微笑まし気に、ミーシャはニヤニヤとこちらに話しかけてくる。
「もうっ、二人なんて知らない!」
私は八つ当たりするようにお弁当を掻き込むのだった。
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