まったりとしたお昼休み

「よっ、元気~?」


「それってどっちかというと私たちのセリフだと思うんだけど……」


「そうですね、真理ちゃんこそ大丈夫ですか?」


「不便なこと以外問題ないよ! それにマサもいるからね!」


車いすに座ったまま真理は笑顔を振りまく。


池の周辺にはやはり俺たち以外の人影はなく、やはり人気のないスポットだった。丁度ベンチのところは日陰になっているが、これから日が伸びるとお昼の時間には日がさすようになってしまう。初夏とはいえ流石に日差しは厳しいので、そろそろ昼食の新しい場所を見つけるべきだろう。


俺は真理を美里さんとミーシャの隣に移動させると、俺もベンチに腰掛ける。


「一人でご飯食べられるよね?」


「ん~、一人でも食べられるけどマサがあ~んしてくれてもいいよ?」


真理は上目遣いでそう言ってくるが、俺は自分のパンを齧りながら「自分で食べて」と素っ気なく返す。


「つれないな~、みーちゃんは食べさせてくれるよね?」


「真理ちゃんは少し自立したほうがいいと思います……」


「みーちゃんまで!? なんかみんな最近厳しくない!?」


真理はお弁当箱を開きながら何故か絶叫している。ミーシャはその様子を見ながら苦笑いを浮かべながらサンドイッチを口に運んでいた。


「でも、生活は今も結構大変なんじゃないの? 車いすって不便そう」


「う~ん、一番大変なのはお風呂とトイレかな。お風呂はお母さんと一緒にはいればいいけど、トイレは面倒くさいかな~。だからオムツはいてるし」


「……本当?」


「もちろん嘘だよ! みんなのアイドルはオムツなんてしないのです!」


真理は何故か自慢げだ。というか汚い話題をそんな大声で話さないで欲しい。


「文化祭はどうするんですか? やっぱり見学?」


「受付とかできることはするつもりだけど基本的には見学かな~。それに友達と回る約束してるから自由時間のほうが多くなるかも」


「私もシフト以外暇だから空いてる時間あったら教えてよ。一緒に回ろう」


「うん、いいよ~。ミーシャの都合いい時間あとで教えて!」


昼食の雰囲気は和気あいあいとしていて、俺としても居心地がいい。真理と二人だとどうしても騒がしい雰囲気になってしまうし、パンを齧る余裕さえない。


「雅人の予定も教えてよ。それともまだ確定してない感じ?」


「だいたい決まってるけど、まさか一緒に回るつもり?」


シフトは初日の午前中のみであとは基本的に空いている。しかし、俺と一緒に回るということは少なからず注目してしまうわけで、この前の事件で自分の評価を知ったので真理以外の人と二人っきりというのはさすがに申し訳ない。


ミーシャもそのことは知っているはずなのだが、「そうだけど、嫌なの?」と全く意にも介していない。


「いや、嬉しいよ。後で送る」


「あっ、だったらLINEのグループ作ってそこで共有することにしましょう。それだったらみんなの予定がすぐ分かりますし」


「それいいね! みんなで遊びに行く時とかも便利だし!」


真理はポケットからスマホを取り出し、我先にとグループを作り始める。少しするとピロンという電子音と共にグループの招待がやってきた。


「まだグループも作ってなかったんだね。何か意外かも」


「というか私、雅人のLINE初めて知ったよ」


「私もです」


「別に教えてとか言われなかったし。今知ったんだからよくない?」


「……そういう事じゃないんだけど」


「雅人さんはもう少しコミュニケーションに対して積極的でもいいかもしれませんね」


ミーシャは呆れ顔、美里さんは苦笑い。それを見ている真理はニヤニヤしているが、それが何故だか俺には全く分からない。


「ふふ~ん、私たちの青春はここから始まるんだよ! 海でしょ、お祭りでしょ、楽しみだね!」


真理は太陽に手を伸ばしてそう言った。

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