帰ってきた三毛猫たち
それはまだマグロの実にぞっこんの三毛猫たちが、マグロの実を盗んだ異邦猫たちに地の果てまでついて行った昔、三毛猫村の西の果樹園では、今年もまた、赤や茶色の実がたわわに実りました。
マグロの実やチクワの実を、村ネコたちが総出で収穫します。
だけど、今年もまた、恐怖の大事件が空から襲来したのです。
ジューシーな匂いを嗅ぎつけたカラスたちが、北の山から、カーカー、カーカー、けんのんな叫びをあげて、やって来たのです。
その数、三十羽以上。
さあ、たいへんです。
黒い群が、巨大な悪魔の形の隊列を作ります。
大空からの襲撃に、用心棒のデカポンも戸惑うばかり。
それでも、猫たちも戦う訓練は積んでいます。
弓職猫の黒猫クロボーの指揮で、村ネコたちが弓をかまえました。
「うてえ」
クロボーの掛け声で、マグロの実へ向かって来たカラスへ、矢がいっせいに放たれました。
「クワッ、クワッ」
数羽のカラスが傷を負い、黒の悪魔が散り散りになりました。
カラスたちは、いったん遠ざかりましたが、大空を旋回すると、またひとかたまりになりました。
そして今度は、弓をかまえる猫たちを標的にして飛んで来たのです。
「うてえ」
と再びクロボーが叫びました。
またも数羽のカラスが負傷しましたが、猫たちが次の矢をかまえるより早く、後続のカラスたちの槍のようなクチバシが突いて来ました。
「クワッ、クワッ、クワッ、クワッ」
「みゃあ、みゃあ、ミャア、ミャア」
傷を負った猫たちが、悲鳴をあげて逃げ出します。
ニンジャ猫のクロカゲが刀を抜き、
「にゃんぽう黒羽斬り」
と叫びながら、ビュンビュン振り回しました。
「クワッ、クワッ」
数羽のカラスが斬られましたが、襲いかかるカラスの数が多すぎます。
ついにクロカゲも、カラスの親分に首や背中をクチバシで突かれ、血だらけで逃げました。
もうおしまいです。
村長も、神さまも、逃げ惑う中、ドロボーカラスたちは、村ネコたちが懸命に収穫したマグロの実やチクワの実へと、飛んで行きました。
その時です。
世界を揺るがす銃声がとどろき、カラスの親分の胸に風穴が開きました。
二発目が世界を引き裂くと、別のカラスの頭が吹き飛びました。
きょうがくしたカラスたちは、
「カッ、カッ、カッ」
と警戒の声を発して、いっせいに逃げて行きました。
そして北の山のかなたへ消えたのです。
村ネコたちがおそるおそる銃声の方を見ると、そこには三毛猫たちがいて、さっそうと近づいて来るではありませんか。
彼女たちは、そう、大将猫だったジュリアンと、副大将だったミケコと、ドロボー猫のキャサリンです。
そうです、マグロの実を盗んだ異邦猫について行った三毛猫たちです。
ジュリアンが言いました。
「あやうく、あたいらのごちそうを、取られるところだったニャ」
黒ブチ猫の村長が進み出て、迎えました。
「帰って来たにゃあ」
ミケコが言います。
「あたりまえニャ。マグロの実がニャる頃ニャ」
「誰が、けんじゅうを撃ったにゃあ?」
と茶ブチ猫のカンタが聞きました。
キャサリンが、ふところのけんじゅうを見せて言いました。
「うちニャア。うちが、早打うちジョーから、けんじゅうをドロボーして、持って来たニャア。だから、うちら、無敵ニャア」
「うわあ、さすが、一流のドロボー猫にゃあ」
とクロカゲが言いました。
キャサリンは花道を歩くハトのように胸を張って言います。
「うちは、一流じゃニャいニャア。うちは、超一流の、ドロボー猫ニャア」
それを聞いた才女のミケコが言いました。
「あら、あんたは、わたくしの作戦通りに盗んだだけじゃニャいの。わたくしとジュリアンが、嘘つきジョージと早うちジョーを、うまく誘惑したから、盗めたのよ」
無敵の三毛猫たちの帰還を喜び、村ネコたちは、みゃあみゃあ、ニャアニャア、歓声をあげました。
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