レナとクロカゲの失敗

 それはまだスズメたちが「チューしてチューして」と鳴いていた昔、さくら吹雪が猫と舞い踊る季節、ミケネコ村の三毛猫レナは、スズメの歌まねに夢中になっていました。

 西の果樹園の木陰に隠れ、

「チューしてチューして」

 とスズメそっくりの声で歌います。

 レナは村いちばんの歌姫なのです。

 レナの美声に誘われて、スズメたちが寄って来ました。

「チューしてチューして」

「チューしてチューして」

 レナとスズメのハーモニーが、木の葉を甘く揺らしました。

 だけどスズメが近づきすぎたら、

 ビュッ、

 目にもとまらぬ早わざで、レナはスズメに飛びつくのです。

 捕まえられたら最後、スズメはレナのごちそうとなってしまいます。

 でも、スズメたちの間では、レナの歌まねが有名になり、誰もが注意するようになりました。右耳がしわくちゃの三毛猫を見かけたスズメは、「チッチッチッ」と周りの仲間たちに危険信号を送るのです。

 だからレナのスズメ狩りは、からぶり続きとなりました。

 それでもレナは夢中で歌います。

「チューしてチューしてチューチューチュー」

 スズメたちは面白がって近づいて来ますが、届かぬ高さでさえずります。

「チューしてチューしてチューチューチュー」

 レナはお日様近くまでジャンプしますが、どうしても届きませんでした。


 ある日、レナが物思いにふけっていると、黒猫のクロカゲが通りかかりました。

「これはこれは、歌姫のレナじゃにゃいですか。にゃにを思いにゃやんでいるにゃあ?」

 クロカゲに肩を叩かれて、レナは言いました。

「あともう少しでスズメを捕まえられるのに、どうしても届かニャいニャ」

「にゃんだ、おいらにまかせにゃよ」

 とクロカゲは言い、スズメ狩りの大作戦を話し合いました。

 ニンジャ猫のクロカゲは、大きなマグロの木の高い枝まで駆け上り、

「にゃんぽう、隠れ身の術」

 と唱えて、枝の一部にへんげしました。

 その木の下で、レナは自慢の美声をひびかせました。

「チューしてチューしてチューチューチュー」

 スズメたちがやって来ました。

「チューしてチューしてチューチューチュー」

 レナの届かない枝にとまって、楽しく踊って歌い始めました。

 その時です。

 枝の間にあみが放たれ、驚いて飛び立ったスズメが三羽、あみにかかってしまったのです。

「にゃんぽう、投げあみの術」

 と言って、ニンジャ猫クロカゲはあみを引き、木から降りました。

「ごちそう、あげるにゃん」

 と言って、クロカゲはあみをレナに渡します。

「まあ、あニャた、ニャンてすてきニャの」

 レナは思わずクロカゲに抱きついていました。

 レナが持ったあみの中では、三羽のスズメが鳴いています。

「チューしてチューして」

 レナの瞳のエメラルドに魅せられたクロカゲが言いました。

「チューしてって、言ってるにゃ」

「あら、まあ、いけニャいわ」

 とレナは言いましたが、抱いた前足はそのままです。

 スズメたちは鳴き叫んで暴れます。

「チューしてチューしてチューチューチュー」

 ニンジャ猫クロカゲは、芸術的な早わざでレナのくちびるをチュっと盗みました。

「まあ、これもニャンぽうニャの?」

 レナは一瞬で恋に落ち、瞳にハートを浮かべました。

 スズメたちは、あみの中でなおも身をよじります。

「チューしてチューしてチューチューチュー」

 レナはクロカゲにキスを返しました。

「にゃんぽう、情熱の赤いキス」

 と言って、クロカゲがさらにキスすると、レナの胸は真っ赤に燃えて、あみを落としてしまいました。

「チューしてチューしてチューチューチュー」

 と鳴きながら、三羽のスズメはあみから脱出して、大空へ飛び去っていきました。











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