弓職猫のクロボーとニンジャ猫のクロカゲ

 それはまだマグロやチクワが木に実っていた昔、ミケネコ村の西の果樹園では、収穫の冬となりました。

 小雪がひらりひらひら舞い踊る中、猫たちは総出で果樹園や作業場に集まります。

 そしてトラ猫たちが木に登り、たわわに揺れるマグロの実やチクワの実を、鋭い爪で落とすのです。

 それを受けとめ、神社の近くの作業場へ運ぶのは、黒ブチ猫や茶ブチ猫のやくめです。

 作業場では、三毛猫たちが風通しのよい軒先に、てぎわよく干していきます。

 鳥たちに盗まれないように目を光らせる黒猫たちもいます。

「ドロボーカラスが来たぞう」

 と爪職猫のクロスケが叫びました。

「おいらにまかせろ」

 と弓職猫のクロボーがしゃしゃり出て、弓矢をかまえました。

「おいらもいるぞい」

 と言って、ニンジャ猫のクロカゲもマグロの実の前に立ちはだかりました。

 カラスは猫よりも少し小さいですが、黒いツバサで空を飛べるし、攻撃的な鋭いクチバシも持っています。

 三羽のドロボーカラスが、

「カア~カア~カア~」

 と、食べ物を見つけたよ、という意味の鳴声を発しながら、近づいて来ます。

「ミュー」

 と叫びながら、クロボーが矢を放ちましたが、三羽は軽やかに避けました。

「にゃんぽう、黒羽斬り」

 と言って、クロカゲが猫パンチをあびせましたが、逆に尖ったクチバシで突かれて、引っくり返ってしまいました。

 三羽のドロボーカラスは、マグロの実を奪うと、

「クワ~クワ~」

 と満足げに鳴きながら去って行きました。


 大将猫のジュリアンが、長いシッポを天まで上げて怒りました。

「クロボーもクロカゲも、ニャンて役立たずニャン」

 クロボーがかしこまって言い訳しました。

「相手が強すぎるにゃあ」

 クロカゲも黒いシッポを股の間に隠して言います。

「空を飛んでくるにゃんて、むりむり」

 ジュリアンは二匹に電光石火の猫パンチをおみまいしました。

「ニャンだってえ? 役立たずは、ミケネコ村から、出てけえ」

 クロボーとクロカゲは、泣く泣く村を追われたのです。


 弓職猫のクロボーにできることは、弓矢を作ることくらいです。北の山の森の中にねぐらを作り、クロボーはひとりぼっちで泣きながら、弓矢を作り続けました。ムシやクモを食べて空腹をしのぎ、おそいかかってくるオオカミを弓矢で反撃して、傷だらけで生き延びました。そして一年後、弓の名手となったクロボーは、たくさんの弓矢を持って村へ戻り、黒猫や三毛猫たちに弓のうちかたを教えたのです。


 一方、ニンジャ猫のクロカゲは、むしゃしゅぎょうの旅に出て、忍法を磨きました。旅の途中で刀職人に出会い、忍法猫なで声の術を駆使して、仲良くなりました。そして最強の刀も作ってもらい、忍術だけでなく、剣術もたんれんしたのです。キツネやイヌとも決闘し、何度も死にかけました。やがてりっぱなニンジャとなって、ミケネコ村に帰って来ました。


 そして今年も収穫の冬、三毛猫たちが神社の近くの軒下に干すマグロの実やチクワの実を、黒猫たちが守ります。

 空を見張っていたクロスケが叫びました。

「ドロボーカラスが来たぞう」

 さあ、たいへんです。

「みんにゃ、弓を持てい」

 と弓職猫のクロボーが命じました。

 クロボーとともに、三毛猫たちも急いで弓を取り、空へかまえました。

 黒いツバサのドロボーカラスが三羽、鋭いクチバシと爪を光らせて、飛んで来ます。

「カア~カア~カア~」

 と不気味な声が空に響きました。

 真っ黒な三羽の姿は、恐ろしい悪魔のようです。

 悪魔がすぐ前まで迫った時、

「うてえ」

 クロボーの号令で、猫たちがいっせいに矢を放ちました。

 二本の矢が一羽に命中し、

「カッカッカッ」

 と鳴きながら逃げて行きました。

 それでも残りの二羽が矢をかいくぐり、クチバシと爪を尖らせて、とつげきして来ます。

 ニンジャ猫のクロカゲが、さっそうと跳び上がり、

「にゃんぽう、黒羽斬り」

 と叫んで、刀をビュウビュウ振り回しました。

 すると黒い羽根がいくつも飛び散り、恐れをなした二羽も、

「カッカッカッ」

 と鳴いて、去って行ったのです。

「クロボー、あっぱれ」

「クロカゲ、あっぱれ」

 と猫たちがたたえました。

 大将猫のジュリアンが、クロボーとクロカゲにキスをして、一級品のマグロの実を差し出しました。

「クロボーよ、クロカゲよ、おてがらニャア。去年は、悪口言って、ごめんニャ。ごほうびをあげるニャン」

「もっと弓矢を作るにゃあ」

 と弓職猫のクロボーは言って、黒い耳をぺったり下げました。

「もっとにゃんぽう、磨くにゃあ」

 とニンジャ猫のクロカゲは言って、黒いシッポをくるりと振りました。













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