村の平和ののど鳴らし
それはまだ太陽が目を細めてニカニカ笑っていた昔、ミケネコ村の南の広場の西の小さな林で、キジトラ猫のノゾミと三毛猫のサクラが、のどを鳴らし合っていました。
グールグール、グールグール、身を寄せ合い、グールグール、グールグール、あたため合い、グールグール、グールグール、幸せそうに目を細め、グールグール、グールグール、のどを鳴らし合っていました。
母親のノゾミは右前足と右後ろ足を骨折していて、グールグール、グールグール、娘のサクラといっしょにのどを鳴らして、傷をいやしていました。
それにはこういうわけがあるのです。
数日前、村の医者の白ネズミのジュンのところへ、サクラはノゾミを連れて行ったのです。
その時、ジュン医師は難しい顔をして、こう言いました。
「これは、あまりにひどく折れています。元に戻ることは、ないです」
「薬をくれニャいと、おまえを、食べちゃうぞ」
と、母を心配するサクラは怒りました。
看護師でジュンの妻の三毛猫マリリンが、目を吊り上げて口を出します。
「あたいのダーリンに、指一本でもふれたニャら、あんたのオニャかを、カイボウするぞい」
「まあまあ」
と、ジュン医師はマリリンをなだめ、小さな瞳で猫の母子を交互に見つめて、こう言いました。
「あなたたち猫こそ、骨折の最高の名医なんだよ。グールグールって、のどを鳴らしてごらんなさい。それこそが、骨折の、最高の薬なんだから」
「ほんとうニャ?」
とサクラは聞きます。
ジュンはさらに言いました。
「それだけじゃないよ。おいら、マリリンの笑った寝顔を見ると、とても幸せになるんだ。あなたたち猫は、幸せな笑顔で寝ることができる。それだって、最高の名医なんだよ。笑顔だって、病気の、最高の薬なんだ。だから、ほら、目を細めて、グールグールって、のどを鳴らして笑うんです」
それ以来、こうやって、一日一時間は、目を細め、グールグール、グールグール、のどを鳴らし合って骨折を癒しているのです。
ひと月もすると、ノゾミとサクラは、のど鳴らしがとてもじょうずになりました。
グールグール、グールグール、母子ののど鳴らしが、ミケネコ村じゅうにひびき渡るようになりました。
「にゃんだ、これは? 巨大なカエルの声にゃ?」
と黒ブチ猫の村長が問いました。
「怖い敵が来たのかも」
と黒猫のクロボーが言って、むしゃぶるいしました。
「怖い敵にゃ?」
茶トラ猫のジロベエは、木に駆け登って隠れ、枝葉のすき間から見張りました。
三毛猫のマリリンが教えました。
「これは、ノゾミとサクラの親子が、のどをニャらしてるニャ。のどをニャらして、ノゾミの骨折を、ニャおしてるニャ」
「にゃにゃにゃ?」
と村長は言って、全身の長い毛をぼわっと逆立てました。
「村のみんニャで、ノゾミとサクラの応援をしようニャ」
と看護師のマリリンは提案しました。
グールグール、グールグール、林から聞こえてくるノゾミとサクラののど鳴らしに合わせ、マリリンも目を細めて笑い、グールグール、のどを鳴らしました。
それに呼応して、グールグール、グールグール、村長も、クロボーも、ジロベエも、目を細め、全身を震わせてのどを鳴らしました。
するとやがて、それに共鳴した他の村猫たちも、グールグール、グールグール、のど鳴らしが広がっていったのです。
口げんかしていたキャサリンとミケコも、引っ掻き合いをしていたカンタとクロスケも、ケンカを止め、肩を寄せ合い、間を細めて笑い、グールグール、グールグール、レナは歌うようにグールグール、クロカゲは忍術を唱えるようにグールグール、ジュリアンは大将猫らしくグールグール、ミケネコ村がのど鳴らしの大合唱で揺れました。
それでノゾミの足が元に戻ることはありませんが、心が温かくなりました。
それでノゾミが前のように速く走れるようにはなりませんが、心に翼がはえました。
神社のほこらで寝ていた村の神さまが、白いシッポをグールグールと振って、言いました。
「世界の平和ののどにゃらしにゃあ」
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