真夜中の決闘

 それはまだ銀の月が闇をギンギン照らしていた昔、ミケネコ村の東の岩場で、三毛猫同士の決闘が行われることになりました。

 村の神社の前の掲示板に、こう書かれていたのです。


【わたくしのマグロの実を盗んだ、ドロボー猫のキャサリンに告ぐ。満月が南の空に一番高く上がった時、東の岩場にて、決闘ニャン。才女のミケコより。】


 さあ、たいへんです。

 ギンギンにふくらんだ満月が高く高く昇っていくと、村じゅうの猫たちが東の岩場に集まって来ました。

 北の草原から、シロサイのデカポンも見物に来ました。

 岩場の穴にもぐって白骨化した猫のお化けたちも、岩の陰から覗いています。

 茶ブチ猫のカンタは、夜店を開いて虫やクモの珍味を売り、ノゾミとサクラの母子は、占いの店を開きました。

 キジトラ猫のランマルと茶トラ猫のジロベエは、マグロの実を賭けて、とばく屋を開きました。

「引っ掻き合いニャら、キャサリンが勝つに決まってるニャ」

 と三毛猫のレナが言いました。

 運動能力で圧倒的なキャサリンに賭ける猫たちが多いのですが、ノゾミの占いでは、ミケコの勝ちと出ました。

 銀の月が「なんちゅう」と叫ぶ頃、南の広場から、いくさ用のよろいを着たキャサリンが、クサリガマをジャラジャラ鳴らしながらやって来ました。

 神社の裏から、ミケコも登場しました。弓職猫のクロボーから借りた弓矢を持っています。

 キャサリンもミケコも、月光に鮮やかに光る岩の上へ昇って行きます。

「やいやい、キャサリン、わたくしのマグロの実、返しやがれ」

 とミケコが言いました。

 キャサリンは不敵に笑って、自分のお腹を前足で指しました。

「ふっふっふ、おミャアのマグロの実は、うちの胃袋のニャかニャ」

 ミケコの目が血走って吊り上がりました。

「ニャ、ニャンだとお、このうらみ、百ミャン倍にして返してやるから、覚悟しいや」

 ミケコは弓を引いて、一矢、キャサリンの心臓へ放ちましたが、よろいに撥ね返されました。

「ちょございニャ。ドロボー猫こそ、猫のおきて。おミャアだって、魚とり大会の時、うちの魚、取ったじゃニャいか」

 と言ってキャサリンはクサリをミケコの首へ投げつけましたが、ミケコは別の岩へ飛び移って避けました。

「あの魚は、わたくしの友のクロカゲが獲った魚を、あんたがドロボーしたものじゃないの」

 そう言って、ミケコは二の矢を放ちますが、やはりよろいに撥ね返されます。

 賭けをしている猫たちから、にゃーにゃー、ニャーニャー、歓声が沸き起こりました。大将猫のジュリアンが、声高々に発表しました。

「この決闘に勝った猫を、あたいの跡継ぎにするニャ」

 声援がさらに大きくなりました。

 矢を放ちながら岩から岩へ逃げるミケコを、クサリを投げるキャサリンが追いかけました。

 見物猫たちも追いかけました。

 ミケコは南へ南へ、大きな月に向かって逃げましたが、最南端の岩の上で身がまえました。

 そしてニンジャ猫のクロカゲに習った忍術を唱えました。

「ニャンぽう、月影の術」

 するとミケコの影が長く伸びて、キャサリンを引っ掻いたのです。

 驚いたキャサリンは「ミャア」と鳴いて飛び避けました。だけど岩の間の穴へ落ちてしまいました。そしてその穴は、ヘビたちの巣くつだったのです。落ちた衝撃で裂けたよろいの中へ、ヘビたちがにょろにょろ入って来て咬みつきました。あびきょうかんの叫び声をあげながら、キャサリンはよろいを脱いで、穴から脱出しました。くわえたヘビをミケコに投げつけ、鬼の形相で飛びかかりました。

 ミケコは、今度は東へ東へ逃げました。

 傷だらけのキャサリンが岩から岩へと追いかけます。

 とうとう森にかかる最後の岩に追い詰めました。

「うちの鉄の爪で、おミャアの体じゅう引っ掻いてやるニャア」

 と言って、キャサリンはミケコに飛びかかって行きました。

 その瞬間、弓を構えたミケコは、矢を真上に放って、岩のすき間へともぐり込んで逃げました。矢がすぐ上にあった巨大スズメバチの巣を射抜き、怒ったハチたちが、いっせいに飛び出してきました。

 ヘビの穴もスズメバチの巣も、才女のミケコの計算通りだったのです。

 スズメバチの群が、逃げまどうキャサリンを追いかけて次々刺しました。

 見物猫たちも恐怖におののきながら逃げました。

「もう死んでもミケコの物を盗まニャいから、許してえ」

 と叫びながら、キャサリンはどこまでも逃げて行きました。











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