噓つきジョージと早うちジョー

 それはまだ夕空が黄金色で夕雲がさくら色だった昔、ミケネコ村にこんな手紙が届きました。


【今夜、村の宝物をもらいに行く】


 手紙には、

 噓つきジョージと早うちジョーより、

 と書いてありました。


 ミケネコ村の三毛猫たちは、皆、かわいい女性で、副大将にしゅうにんした才女のミケコが、黒ブチ猫の村長を呼びつけ、牙を剝いて言いました。

「村の宝物は、男たちで守りニャさい。もし取られたら、男たちみんニャ、絶好ニャア」

 さあ、たいへんです。

 村長は白と黒の長い毛をハリネズミのように逆立てて、村じゅうをかけ回りました。そして若者たちを神社に集め、村の神さまの前で対策を話し合いました。

「村の宝物って、にゃんだにゃあ?」

 と黒猫クロスケが聞きました。

「そいつはきっと、村の神さまのことだろにゃあ」

 と村長はしんこくな顔で答えました。

「だったら、神さまに相談しなくちゃにゃあ」

 と茶トラ猫のジロベエが言いました。

 ほこらの中の村の神さまは、長いシッポの毛を吹雪のように広げ、ひげをぷるぷる震わせながら告げました。

「みんにゃで、いのちをかけて、わたしを守りにゃさい」

  

 夜になって、噓つきジョージと早うちジョーが、村の神社にやって来ました。シャム猫の噓つきジョージは目をブルーに光らせ、アメリカンショートヘアー猫の早うちジョーは目をゴールドグリーンに輝かせて、さっそうと現れました。

 異邦猫の二匹の前に、村長と若者たちが立ちはだかりました。

「村の神さまは、おいらたちが、いのちをかけて守るんだにゃあ」

 と村長がたけだけしく言いました。

 ニンジャ猫のクロカゲが刀を抜くと、刃に銀の月がギンギン反射しました。

 弓職猫のクロボーも弓をかまえました。

「にゃあ?」

 噓つきジョージがぱちんと指を鳴らすと、早うちジョーが腰からけんじゅうを抜きました。すると、にゃんっというまに、村長と若者たちのシッポにかざ穴があいたではありませんか。クロカゲの刀もクロボーの弓も、撃ち飛ばされていました。

「次は、心臓か、脳みその、どっちか好きなほうに、かざ穴をあけてあげるにゃ」

 と噓つきジョージが怖い目で言います。

「心臓か、脳みそに、かざ穴があいたら、おいら、どうなるにゃ?」

 とクロスケがひげに汗をかいて聞きました。

 ジョージのブルーの目がめらめら燃えました。

「心臓に、かざ穴、あいたら、いっしょう痛いにゃ。脳みそに、かざ穴、あいたら、えいえんに頭が悪くなるのにゃ」

 こんな恐ろしいことは初めてです。村長と若者たちは、みんな腰を抜かして、その場にひれふしました。

「いのちだけはお助けを」

 と村の神さまが冷や汗まみれで頼みました。

「それはできにゃい・・」

 と噓つきジョージが首を振りながら言いましたが、腕組みをして、こう続けます。

「だけど、夜明けまでに、村じゅうのチクワの実を持ってきたにゃら、考えてみよう」

 神さまがほこらからこそこそ逃げ出そうとすると、早うちジョーのゴールドグリーンの目がするどく光り、すかさず一げきみまいました。りっぱなシッポが半分なくなり、神さまはこおりつきながら叫びました。

「村ネコたちよ。にゃにをしておる。早くチクワの実を持ってきにゃさあい」


 村長と若者たちは、銀の月光をたよりに、村じゅうのチクワの実を集めました。村のあちこちで、カサコソあやしい物音が夜風にまぎれました。三毛猫たちのかわいい声も聞こえました。だけど村長と若者たちは、チクワの実を集めるのにいそがしすぎて、気にもとめなかったのです。

 皆が集めたチクワの実を袋に詰めながら、クロスケが悲しそうに聞きました。

「これ、ほんとうにあいつらに渡すのにゃ?」

 村長は白い眉をひくひくさせて答えました。

「村の神さまのいのちにはかえられないのにゃ」

 ジロベエがシッポをふりふり言いました。

「でも、マグロの実じゃなくて、よかったのにゃ。これがマグロの実だったなら、かわいい三毛猫たちが、あいつらについて行っちゃうもん」

 村の女性の三毛猫たちは、マグロの実に夢中なのです。

「でも、チクワの実だって、奪われたくないにゃ。こうなったら、みなで、あいつら、引っ掻いちゃおう」

 と茶ブチ猫のカンタが提案しました。

 村長は震えるひげを爪で撫ぜながら反対します。

「だけど、早うちジョーには、恐ろしいけんじゅうがあるぞい」

 クロスケがシッポを逆立てて言います。

「だったら、やつらが寝ているすきに、みんなでいっせいに飛びかかって、けんじゅうを奪っちゃえばいいにゃ」

 村長と若者たちは、ついにたたかうことを決心し、作戦をたてたのです。


 銀の月がかたむき乱れるころ、村長と若者たちは、四方から抜き足さし足で、神社にせまりました。そして、月光に揺れる神社を取り囲み、いように光る目を攻撃地点へしぼりました。若者たちのぷるぷる震えるひげの先から、冷たい汗がポトポト落ちます。なにせしっぱいしたら、心臓か脳みそに、かざ穴をあけられてしまうのですから。ついに村長が長いシッポを高く上げ、風切る音を発して振り下ろしました。とつげきの合図です。恐怖で動けない若者もいましたが、多くの血気盛んな若者たちが、爪と牙をけんめいにとがらせ、いっせいに飛びかかりました。なのにそこには、イビキをかいている神さましかいなかったのです。

 神さまの背に張り紙があり、


【村の宝物は、確かにいただいた】


 と書いてありました。

 噓つきジョージと早うちジョー、のしょめいもありました。

 翌朝、村長と若者たちは、村じゅうのマグロの実と数匹の三毛猫たちが、消えていることを知りました。











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