優等生になったサクラ

 それはまだ猫の学校があった昔、ミケネコ村の三毛猫は、看護師のマリリンと、歌姫のレナと、女子校生のサクラの三匹だけになっていました。

 他の三毛猫たちは、マグロの実を盗んだ異邦猫について行ってしまったのです。

 おかげでその三匹は、男性ネコたちにモテモテになりました。

 村いちばんの美猫のマリリンは、夫の白ネズミのジュンとラブラブなので、レナとサクラが歩くまわりには、男性ネコたちが群をなしました。


 北の草原では、シロサイのデカポンの背中をステージとする歌姫レナのコンサートが連日行われ、男性ネコたちが集まって、失神するほど熱狂しました。

 ヒット曲の【ニャンてったってアイネコ】は、村じゅうの男性ネコたちを悩殺しました。


  ニャンてったってアーイネコー あたしはアイネコー


 とレナが腰を振り振り歌って、ウインクしながら投げキッスを贈ると、男性ネコたちはその飛んできたキッスを命がけで奪い合うのです。

 

 ずっと猫の学校をさぼっていたサクラは、折れた足でがんばる母のノゾミのため、近頃はまじめに登校するようになっていました。

 不良学生たちにのどを撫でられて遊びに誘われても、今のサクラはついて行きません。

 ノゾミが作ってくれた紺の制服を着て、猫の学校である神社へ行くのです。

 その制服があまりにも似合っているので、男性ネコたちはゴロゴロにゃんにゃん、ついて行きます。


 今日の一時間目の学科は、数学です。

 教師は、黒ブチ猫の村長です。

「三角関数が解けにゃいと、村ネコ失格にゃ」

 と村長は言って、紙に三角形と公式と、なんかいな問題を書きました。

 それを見た学生猫たちは目がくらんだり、ジンマシンになったりしました。

 だけどサクラは違います。

 サクラはさっと紙に飛び乗って、蜜ロウのクレヨンで描かれた問題を、シッポを振り振り、なめました。

 村長は前足を叩いてほめました。

「おお、正解にゃ。にゃんて優秀な女子校生にゃあ」

 

 二時間目は、英語です。

 教師は、白猫の神さまです。

 学生たちがほこらの前に集まると、神さまは言いました。

「みにゃのもの、今から言う、わたしの言葉を、英訳しにゃさい」

 学生たちは緊張でシッポをピンと張り、ひげをヒクヒクさせました。

 神さまは問います。

「第一問、みゃんみゃん」

 猫たちはまたもジンマシンになりました。

 だけど英語も得意なサクラは違います。

 サクラは目を輝かせて答えました。

「ミャウミャウ」

 神さまのシッポが吹雪のように舞いました。

「おお、正解にゃ。では、第二問、みゃーみゃー」

 それにもサクラは意気揚々と返しました。

「ミューミュー」

 神さまも、前足を叩いてほめました。

「ニャンダフル、にゃんて優秀にゃ猫にゃんだ。今すぐ留学できるにゃあ」

 だけど神さまがそう言った時には、サクラはもう眠っていました。幸せな寝顔で、グールグールのどを鳴らして。

 それを見た神さまも、しんせいな眠りにつきました。

 そうなのです。

 猫の学校でのいちばんの習い事は、授業中、生徒も先生も、幸せに眠ることなのです。


 だけど体育の授業だけは、猫たちは目をらんらんと光らせ、眠りません。

 今日、最後の授業は体育です。

 教師は、黒猫のクロカゲです。

「今日の課題は、今が旬の、赤トンボとり、にゃ」

 とクロカゲ先生は言いました。

 みんなで北の草原へ行くと、数え切れない赤トンボがいました。

 まずニンジャ猫のクロカゲ先生が手本を見せます。

 草にとまっているトンボに忍び寄り、クロカゲは、トンボの目の前でシッポの先をグルグル回しました。

「にゃんぽう目玉まわし」

 と唱えて、クロカゲは目を回したトンボを一瞬でくわえ、むしゃむしゃ食べました。

 感動した学生猫たちは、さっそく真似をしました。

 だけどシッポを回すとトンボは驚いて逃げてしまいます。

「にゃんぽう目玉まわし」

 と猫たちは言いますが、目の前をグルグル回るトンボを見て、逆に目が回ってでんぐり返ってしまいました。

 だけどサクラは違います。

 木登りの特訓で鍛えられた瞬発力で、サクラは野原を駆け回り大ジャンプ、次から次へ赤トンボを捕らえていきます。

 ニンジャ猫のクロカゲも、全身の黒毛を逆立てて称えました。

「おお、将来、りっぱな大将猫になるにゃあ」


 不良猫だったサクラは、村でいちばんの優等生になり、母のノゾミに上等の赤トンボを持ち帰るのでした。










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