ニャンてたってアイネコ

 それはまだシロサイの背中で三毛猫が歌っていた昔、ミケネコ村の北の草原では、歌姫レナのステージに、男性猫たちが集まっていました。

 縮れた右耳を紅のコスモスで飾り、ミケネコのレナは、シロサイのデカポンの背中で、星々も一緒に踊りだすまで熱唱しました。

 アンコール曲の【ニャンてたってアイネコ】を歌い終え、レナが舞台を下りようとすると、男性猫たちが押し寄せました。

 先頭の黒猫のクロカゲが、マリーゴールドの花束を差し出し、

「ああ、アイ・ラブ・ユーの言葉じゃ、足りにゃいから」

 と言って、レナにキスしようとしましたが、強烈な猫パンチを浴びて飛んで行き、闇夜の国へと呑み込まれました。

 二番目の黒猫クロボーは、ヒマワリの花束を手渡し、

「そばにいたいよ。きみのためにできることが、ぼくにあるかにゃ?」

 と聞いて、レナを抱きしめようとしましたが、レナの電光石火の蹴りを食らい、星屑のかなたへ消えて行きました。

 三番目の茶ブチ猫のカンタは、赤いリボンの花束を差し出し、

「この広い野原いっぱい咲く花を、ひとつのこらず、あにゃたにあげる」

 と口説きましたが、レナはこう返しました。

「あら、世界じゅうの花は、もともとみんニャ、あたしのために咲いてるニャ」

 四番目のキジトラ猫のランマルは、薄紅色のシクラメンを差し出し、

「あにゃたはど、まぶしいものはにゃい」

 と口説きました。

 ランマルのくりっくりの瞳に好意を抱いていたレナは、花のすがしい香りに寄せられ、

「あら、ニャンとまあ」

 と頬を染めました。

 彼女がシクラメンを受け取ろうとすると、ランマルの後ろの猫たちが、

「ちょおっと、待ったにゃあ」

 を連発しました。

 そして次々贈り物を差し出して、プロポーズするのです。

 茶白猫のジロベエも、黒猫のクロスケも、黒ブチ猫の村長も、白猫の神さまさえも、美しい花やご馳走を差し出して、求婚しました。

「あら、まあ、ニャンとしましょう?」

 と迷うレナを、星々が濃くとがって照らしました。

 その時です。

 赤黄白青の星屑を揺らめかす大きな声が、草原にひびきました。

「ちょおっと、まったあ」

 猫たちはびっくりして、でんぐり返りました。

 だって、その声の主は、シロサイのデカポンだったのですから。

「オラも、レナが、大好きだあ。レナは、オラの、なんてたってアイネコ、だあ」

 デカポンは、そう告白すると、頬を染めた顔から、火山のような湯気を出しました。

 猫たちは、もう一度、びっくり返りました。

 レナは。デカポンの大ツノに抱きついて言いました。

「ああ、あたしだって、いつもステージになって、あたしを支えてくれるあんたが、大好き。もう、あたしゃ、あんたニャしでは、生きていけニャいのよ」

 レナがツノにキスすると、デカポンは、彼女を頭に乗せたまま、喜びの雄たけびを上げ、草原じゅうを駆け回りました。

 ドスドスドスドス、足音が大地を揺るがす星屑のステージで、レナはもう一度歌いました、


  ニャンてたってアーイネコー あたしはアイネコー


 猫たちは。みたび、びっくり返りました。























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