32.勇者とヒロインがどうなるかわかるわよね?

 俺たちはハータを逃げ出し、一番近い農作の町ラッツルへ向かっている。

 夜になり、野営地を作って狩った晩飯を食べている。


「この聖紋章格闘家のハティ様がみずから狩ってきたグリーンボアボアはおいしいかしら?」

「うめぇな!」

「お肉からジュワッとおいしい脂があふれてますよ。すごいですね。聖紋章!」

「いえ、聖紋章にはそんな効果はないはず……ないはずです。きっと」


 たまたま見つけたグリーンボアボア。硬い肉質で干し肉によく加工されているイノシシなんだが。

 焼いて食ったら、めっちゃおいしい。

 本来はパサパサした肉のはずなんだけどな。


 グリーンボアボアをハティが殴ったときに、ハティの首の聖紋章が光ってたんだけど……聖紋章にはお肉をおいしくする効果があるんだろうか?


「アハハハ。しっかり味わいなさい。助けてもらったお礼に、今後の食料調達は私にまかせなさい!」

「おっしゃ任せた。奴隷じゃなくなったんだから、今後は自分で働けよ」

「それは別よ。私は奴隷としてじゃなく、仲間としてエルクに養われて、エルクの買う屋敷に住む権利があるの!」


 決まっていることのように話すハティ。

 そんな決めごとをした覚えはないんだが。

 リリアンが肉をのみこんでから言う。


「私も仲間なので、エルクの屋敷に住みますね。というか、魔角を倒した報奨金で屋敷なんていつでも買えるんじゃないですか?」

「そうだなー。王都ヴェルローデでは災いの予言で追い出されて、ハータを逃げ出した俺たちに報奨金が出るかわかんないけどな」

「む。そうでした。じゃあ……私の実家で大人しくしておきますか? 私たちがいい人だとわかれば報奨金も出るでしょ?」


 リリアンの実家。夜明けのルシファー教団の隠れ里か。隠れるにはいい場所だな。

 ハティは首を傾げて聞いてくる。


「リリアンの実家? なに? どういうことよ?」

「あー……それな……」


 俺は、ハティが抜けていた時の俺たちの旅を教える。


「なに面白そうなことしてるのよ! 私も行きたいわ。私だけ仲間外れなんて嫌よ」

「はっはっは。わかってるって。みんなで行こうな」




 ――――




 食べ終わり、最初の夜の見張りはハティとアリアがすることになった。

 頼りになるハティ様アピールをしたいらしい。

 頑張るのはいいが、頑張り過ぎないか少し心配だ。


「じゃあ、見張り頼むな。おやすみー」

「はいはい。安心してグースカ寝てなさい」

「おやすみなさい。エルクさん。リリアンさん」


 俺は地面に布を広げ横になる。

 リリアンは俺のすぐ隣に横になり、抱き着いてきて、そのまま体重を預ける。

 重くはない。暖かく優しい匂いがする。

 夜は冷えるだろうから、リリアンにも布をかける。

 すぐに「すーすー」と声が聞こえてきた。


「ちょちょちょっと。エルク」


 肩を揺すられる。ハティの声だ。

 慌てた様子だが、敵の気配はしないぞ。

 俺は目を開ける。


「なんだよ? ハティ。やっぱり先に寝たいのか?」

「い、いやいや、違うわよ。そうじゃなくて……」


 なんか、少し顔を赤らめているハティ。

 チラチラとリリアンを見ている。


「なんでエルクとリリアンが一緒に寝てるの?」




 え? いまさら?

 おっと、そういえばハティがいた頃は別々に寝てた気がするなー。


「うーん。色々あってな、こうなったんだよ」

「いやいや! どういうことよ!?」


 ハティがガックンガックン揺すってくる。

 おい。あんまり騒いでるとリリアンが起きるだろーが。


 アリアのクールな声。


「あの。リリアンさんの実家にお泊りしてから、毎日2人一緒に寝てますよ?」

「え-! なになに? 2人はその……恋人さんなの?」


 じっと目を合わせて聞いてくるハティ。

 恋人? あー。そういう風に見えるかもな。


「いや、はっきりそういう話をしたわけじゃない。けど、そうか……そういうことか」

「なに納得してんのよ! 質問に答えなさいよ」

「えーっと。まだ恋人じゃない。けど、明日その話をするよ」

「え……まだ……」

「ありがとうな。ハティ。全然気づいてなかった。はっきりさせるよ。ちょうどリリアンの実家にも行くし、色々忙しくなりそうだな。よし。俺は寝る! 見張りは任せるぜ。おやすみー」

「いやいや。ちょっと待って。寝ないで。その……まだ恋人じゃないならさ……私にも……ちょっと。本当に寝ないでよ。私の話を聞いてよ」


 さらに揺さぶってくるハティ。

 そこへ、アリアのクールな声。


「ハティさん。もうやめてください。もしお話しがあるなら明日されてはどうですか? 今は寝かせてあげましょう」

「うー、でもぉ……」

「こういうのは無理矢理ではなかなかうまくいかないものです。わたくしと良い作戦を考えましょう」

「うぅ、うん。そうだね。で、どんな作戦?」

「いいですか? そもそもの話ですが、この世界に男女が生まれる前は神々が世界を支配しており、中でもルシファー様という神がいまして――――」




 アリアの話が子守歌のように聞こえてくる。

 俺は再びリリアンを抱きしめる。


 えーっと、明日は夜明けのルシファー教団に行く方法を探して……隠れ里に着いたら、俺たちがハータから逃げたのがおさまるまでのんびりして。

 あー、報奨金が出たら大きな屋敷を買いたいな。みんなで楽しく暮らそう。


 ただ、魔王軍の侵攻はなんとかしないとな。俺たち以外に魔角を倒したって話聞かないから、何かできるだろ。

 人族が滅ぶとのんびり暮らせなくなるだろうし。

 そういえば、アリアが秘密のはずの聖紋章を知ってるのはなんでなんだろ? 明日聞こうかな。


 俺は今後のことを考えていると、だんだん眠気が強くなってきた。

 腕に抱いたリリアンは「すーすー」規則正しい寝息をたてている。


 うっすら聞こえるアリアの話は激しさを増してきているようだ、「世界を裏返すなんとかの召喚」がどうとか聞こえる。


 みんなと一緒に面白おかしく過ごすためには、まだまだやることがありそうだ。









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ここまで読んでいただきありがとうございます。

本作はこれで完結いたしました。



本作は著者が10万文字を書こうと思い書き上げたものです。

拙い文章にも関わらず、お付き合いいただきありがとうございます。



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では、次の作品でお会いできることを楽しみにしております。

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奴隷少女のついでにパーティ追放された時間稼ぎ要因の俺は、安全な暮らしを選ぶぜ。なんやかんや魔王と戦うことになるけど 維瀬ゆうに @oyatora

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