31.ちょっと!すんごい魔法よ!

「神の雷よ。ここに! ディストラクト・ニョルニム・ハンマー」


 ドロシーの最強魔法だ。

 追放前に何度も見た。防御魔法や結界魔法を無視した、神のいかずちのごとき究極の雷撃魔法。


 『アイギスの盾』が使えなくなった俺には防ぐ術が無い。

 魔法をやめさせようにも、詠唱済みの魔法は止められない。

 俺がこのまま突っ立ったままだと、確実に死ぬ。



 ただ、強い魔法には弱点がある。

 それは――――発動が遅いことだ。

 俺は弱い魔法しか使えないから、あんまり気にしてないんだけどな。


 ちょうど、油断しきってるアレンがすぐそこにいるし、利用させて貰おう。

 雷撃を落とす黒い雲がバチバチいってる間に、俺は急いで地面に手をつく。


「アーススライド」


 俺はアレンが立っているところも含めて地面を大きく動かし、俺のいた場所にアレンが来るようにする。


「へ?」 まぬけなアレンの顔を最後に、ドロシーの最強雷撃魔法がそこへ落ちる。


 ズガアアアアンッ

 殴り付けるような閃光と、耳が聞こえなくなるほどの轟音。地震が起きたようにあたりが揺れる。

 轟音が響く中、男の悲鳴も聞こえた気がする。


 視力が回復するのを待ち、前を見ると……

 アレンが黒い煙を上げながら倒れていた。


「きゃああああっ」


 ドロシーの大きな悲鳴。

 ドロシーは大きく開けた口を押さえ、目を見開いている。


 しかし、アレンに近づいては来ない。

 いや、来れない。

 さっきの最強魔法は全魔力を必要とし、魔力枯渇で動きたくても動けないんだろう。


 俺は立ち上がり、アレンの元へ歩く。


「かっ……がっ……」


 アレンは虫の息とは言え、生きているようだ。

 ドロシーがアレンを殺さなくて良かったが……。

 本当は俺がこの魔法を受けていたことを思うと、ドロシーが仲間のアレンに大ダメージを与えさせたことの文句は受け付けられないな。


 まぁ、プリーストのハンナがアレンパーティに残っていたら、回復されて戦いは続いただろう。

 やっぱり仲間は大事だな。


 俺は最後の最後にもう一度聞く。


「アレン。もういいだろ? ハティの奴隷契約を解除しろ」


 …………少しの間の後。

 ギリギリ開けた片目で俺を見上げるアレン。


「うるせぇ……根暗野郎。偉そうにするのは……俺を殺してからにしろ」


 コイツ……




 いや、俺は俺の仲間のために行動をするだけだ。

 俺は大声で仲間を呼ぶ。


「おーい。終わったから来てくっ……」

「何してるんですか! バカ」


 リリアンが俺に飛びついてきた。

 ギューッと抱きついた後、顔を上げる。涙目。


「ケガしてませんか? 調子に乗り過ぎてアホになってませんか?」

「ケガしてねーし、アホじゃねえ。天才的な戦いをしたぜ」


「ふふん」と笑う俺を見て、少し微笑むリリアン。

 ハティやアリアも来た。


「やるじゃなーい。エルク」

「ケガがあるなら治しますので言ってください。アホは治せませんが」

「いや、本当にケガはしてない。それより、さっさと奴隷契約をなんとかしようぜ」


 俺はハティに『プライアラッパ』を吹くように言う。

 ハティは『プライアラッパ』を吹くが、音が出ない。

 壊れてる?


 何度か息を吹き込むが、音は出ない。


「はぁっ……はあっ。何よコレ。どっか詰まってんじゃない?」

「なんだろうな。ちょい貸してみ?」


 俺はハティから『プライアラッパ』を受け取り、吹いてみる。


 すると、

 パァーーーーッ

 しっかりと音が鳴った。


 ハティの怒り声。


「なんで私じゃ鳴らなかったのよ!」

「さぁ。本気度が足りなかったんじゃね?」


 俺が適当なことを言っていると、俺の指輪『エルフ王の指輪』『勇者の指輪』が輝く。

 ハティの奴隷の首輪も光っている。

 なんだこれ? ハティの首の光を見ていると、手が熱くなってきた。


「あっつ!」

「熱いー-」


 ハティは首輪に手をかけている。

 首輪を外そうとするしぐさをし――――そのまま首輪を外した。


「あれ?」


 呆然と外れた首輪をみるハティ。

 あれ? 取れちゃったよ。


「ひゃっほー! 自由だー-!」


 首輪を遠くに投げ捨て、ピョンピョン跳ねるハティ。

 おお! 奴隷契約が解除されたみたい?


「やったな。ハティ!」

「うん。ありがとっエルク」


 ハティが俺に飛びつき、キャッチする。

 軽い。おっぱいはやわい。


 奴隷の時は主人以外がおっぱいに触れると首輪が締まってたけど、もう首輪は外れた。

 強めに抱きしめ、おっぱいの感触を楽しんだが、何も起こらない。

 アレンに追放された時からなんとかしたかったが、こんなにうまくいくなんて!


「みんな。ありがとう。なぁ! 今ならハティのおっぱい触り放題だぜ。早く揉んでみろよ」


 俺は抱きしめていたハティをリリアンに差し出す。

 リリアンは、ジトッと漆黒の目で俺の顔を見ていたが……俺の右手に何かを見つける。


「あれ? エルク。手をケガしてますよ?」


 リリアンが俺の右手を指さす。

 ん? 手に……黒い模様がついている。


「なっ!」


 アリアが驚きの声をあげて、俺の手を持って黒い模様を見る。


「これは、ユリス様の聖紋章です。なぜこのようなものが……これは聖ユリス教の大司祭のみが知る紋章で、ユリス様がこの世界に残したはじまりの紋章と言われています」

「あっ。ハティの首にも同じ模様がありますよ」


 リリアンがハティの首を指さし、そこには俺の右手と同じ、聖紋章とやらがある。

 なにやらすごい紋章らしいな。

 ってか、大司教のみが知る紋章をなんでアリアも知ってんだ?


「なぁアリア。なんでこの……」


「何者だ貴様らぁっ!!」


 急に野太い大声がし、騎士っぽい格好をした人が10人以上いる。

 全員が剣や槍を持って武装しており、中には聖女ディアナもいる。


「ドロシー殿に、あれはアレン殿ではないか? 2人とも倒れておるではないか! さては魔王軍の手の者だな! 捕まえろ!」


 アレンをボコった俺が、魔王軍に疑われている。

 アレン達は人格はアレだが、戦力としては期待されているし、それをボコったってなると……牢屋送りか?


 いつもはクールなアリアが早口で言う。


「マズイですね。逃げましょうエルク。その聖紋章は聖ユリス教最大の秘密。言い伝えによると、ユリス様の力を使うことができ、その気になれば国を滅ぼせると聞きます。捕まるとやっかいです」


 確かに面倒なことになりそうだ。


「よーし。逃げるぞ」

「うん」

「はい」

「わかりました」


 俺は地面に手をつき、

「壁となれ。アースウォール」


 俺は足止めのために目の前に土の壁を出現させる。

 つもりが、右手が熱くなり、魔力があふれ――――魔法が暴走する。


 ドガドガッと音がし、壁は壁だが、端っこが見えないくらい、長い土の壁が目の前に出てきた。

 高さは……うーん、雲に隠れて見えない。とても高そうだね。

 ハティのあきれた声。


「ちょっと、エルク。やり過ぎよ」

「いやぁ、なんか……この聖紋章の力かもねー。ま、いいや。逃げようぜー」


 俺たちはバカみたいに高くて長い土の壁を背に、ハータを逃げ出した。

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