5.魔女っ子とクエストに行くわよ

 召喚魔法使いのリリアンを仲間にした翌日の朝。

 早めにギルドへ行くために、リリアンへ『スイクーンの寝床』の食堂に集まろうと言ったんだが現れない。


 そこで、ハティには借りた鍵で様子を見に行ってもらった。

 俺は久しぶりの魔物との戦闘に備えてと装備を確認していると、ハティが1人で2階から降りてきた。


「ねぇ。エルク。あの子全然起きないから一緒に来てくれない?」

「ん? あー、わかった」


 困り顔のハティから大変さが伝わってくる。


「あの子すごいのよ。何してもずーーっと寝てるの」


 困難さを訴えてくるハティ。

 何してもって、どんなことしたんだよ?


 俺達はリリアンの部屋に入る。

 中は荷物はあまりなく、ベッドに黒いローブ姿のリリアンが横になっている。

 布団は床に落ち、お腹あたりがなぜか濡れている。


「おい。水かけたのか?」

「うん。そうよ。でも起きないの」


 ハティに強く揺すられたのか、リリアンの服は少し乱れている。

 しかし、リリアンは「すーすー」とリズム良く寝息をたてている。


 んー。確かに起きないっぽいな。

 勝手に連れていけって言ってたし、着てる服は外に出ていけそうだ。

 このまま抱えていくか。


 俺はリリアンに近づき、お姫様抱っこする。

 軽っ。


「わーお。大胆ね。エルク」

「はっ。これくらい余裕よ」


 ニヤついたハティに軽く返す。

 リリアンをお姫様抱っこするとき、女の子らしい良い匂いがしたが、クールに返す俺カッコイイ。

「ふーん」と俺のひきつりそうな笑顔を見てくるハティ。


「でもでも、ずっとそのままで冒険行くの疲れるんじゃない?」


 確かにリリアンが軽いといっても、ずっとこのままは大変そうだ。

 俺は一度リリアンをベッドに下ろし、おんぶに切り替える。


 背中におっぱいが!

 ......当たってる感触は無い。

 あまり肉付きが良くない子のようだ。やれやれだぜ。


 ハティはニヤニヤした顔のまま。


「あらあらー。寝ている女の子の胸を堪能しているようね。やらしい」

「堪能できてねぇよ。そういうのいいから。ハティはそこに転がってる杖持ってくれ」


 俺たちはギルドへ向かい、手頃なクエストを探しに行った。




 ――――




 お昼前くらいの時間。近くの森でナックルベアーの狩猟クエスト中だ。

 ナックルベアーは3メートルほどの熊の魔物で、力はあるが頭はあまり良くない。

 銀級パーティの相手にはちょうどいいくらいだ。


 リリアンがドラゴンを召喚できるっていうことで、このクエストを受けた。

 ナックルベアーの肉はうまく、俺が働いている食堂でも人気メニューになっている。


 俺はリリアンを背負ったまま、森を進む。

 たまに地面へ手をついて魔物を探しているが、周りにはいないようだ。


「ねぇエルク。その子まだ起きないの?」

「あぁ。よく寝てる」


 リリアンは一度も目覚めず、ずっとすーすー寝てる。

 いつになったら起きるんだ?


 考え込んでいると、俺の肩をハティがトントン触れてくる。


「ねぇエルク。なんかバサバサ聞こえない?」


 ハティがあたりをキョロキョロ見渡している。

 俺も静かにしていると、遠くから鳥が羽ばたく音と共に、木の陰から大きな茶色い鳥が飛び出してきた。


 チュチュンッ


「ジャイアントスズメだ!」


 ジャイアントスズメは1メートルほどのでかいスズメだ。肉食で群れを作り、旅人を襲う。

 しかし、あまり強くないため、鉄製の装備で身を固めていればザコだ。


 でも俺たちは戦士のような硬い装備をしていないので油断できない。

 ハティが大声を出す。


「ちょっと! 背負ってる女の子のおっぱいに興奮してるから気づかないのよ」

「こんなちっちゃいおっぱいで興奮しねーわ」


 おっぱいじゃなく、地面の気配に注意していたから気づかなかった。

 そもそもだが、飛んでいる魔物の気配は土魔法で気づけないのだ。

 俺の土魔法はこういった弱点がある。


「おい。リリアン。起きろ。出番だぞ」


 俺は背中のリリアンを強く揺らす。


「すーすー」


 ジャイアントスズメが近くまで飛んできて、フンを飛ばしてきた。

 ジャイアントスズメはフンをつけてマーキングする習性があり、マーキングした獲物を集団で襲う。


「やべぇ。起きない。ハティ逃げるぞ」

「わかったわ」


 ハティが走り出し、俺はその後をついていく。

 木々の間を通るようにジグザグに走れば、木が邪魔になって逃げきれるだろう。

 ハティはウサミミ族の血が流れているためか、野生の感がするどい。イイ感じに木々を抜けていく。


 俺はかなり激しく走っているのに、リリアンが起きそうな様子はない。

 こんな時にも熟睡してやがる。

 ドラゴンが召喚できたら、こんな鳥なんて一撃なのに。




 ――――




 ずっと走っていると、ジャイアントスズメは追ってこなくなった。

 そのままギルドへ失敗の報告をし、『スイクーンの寝床』の食堂に戻る。


 食堂に入ったときにリリアンが起きたのか、顔を上げる。


「くっさ」


 起きて最初にそれ?

 ジャイアントスズメのフンはとても匂う。遠くからでも匂いをたどれるようにするためだ。

 でもさ、ずっと寝てて何もしてないやつがそれ言う?


 俺は「オイ」と言おうとすると。

 目の前に鼻を押さえたサーシャ先輩のひきつった笑顔がある。


「クサイ」


 つらい。

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