4.仲間来ないじゃないの

「誰も来なかったな」


 仲間募集をした次の日の夜、『スイクーンの寝床』の食堂。

 俺はハティと晩御飯『白変わりクマの唐揚げ』を食っている。

 普段は茶色い体毛だが、戦闘になると白い体毛に色を変えるクマの肉を揚げた料理だ。肉も最初は酸味があるが、途中で甘味に変わる不思議な味をしている。


 今日は食堂の仕事を休んで、ずっとギルドで待っていた。

 ギルドではチラチラ目線を感じたんだけどな。


「食べないなら、その肉貰うわよ」


 考え事をしていて、手が止まっていたのか、ハティは俺からクマ肉の唐揚げを奪っていく。


 俺が出した仲間の募集内容は固い戦士や、高い攻撃力の魔法使いだ。

 けど、俺のような中途半端な中級魔法使いが多くを求めちゃダメだったのか?

 俺は新たにパーティを登録し、銅級のパーティになっている。


「今日はギルドに行ったからなんだか疲れたわ。サーシャさーん。野菜スープあるー?」

「ごめんね。もう無いのよ」


 サーシャ先輩が手を合わせて謝ってくる。

 ハティは他の席を見渡す。


「あそこのローブの子が野菜スープ食べてるじゃない」

「あれで最後だったのよ。代わりに何か作って貰おうか?」

「いいの? じゃあデザートをお願い。でも、あの子毎日野菜スープ食べてない? ちょっと文句言ってやるわ。働かざる者食うべからずってね!」


 ハティが立ち上がる。

 どの立場で言おうとしてるんだ。俺に養われてるってのに。


「やめとけやめとけ。働いてねー奴があんまり偉そうにするな」

「何言ってるの。多くの冒険をしてきた私が世界の厳しさを教えてやるわ」


 ハティが鼻息を荒くしながら黒いローブの子へ向かっていく。

 あーあ。行っちゃった。




 ――――




 俺は食べ終わり、明日貼り出す仲間の募集内容を考えていると。


「ねぇ。エルク。魔法使いを見つけたわ」


 ハティが自慢げな顔で、黒いローブの子を連れてきた。

 ハティより小柄で細身であり、黒いショートカットの少女だ。お人形のような見た目で、目の色は真っ黒。

 なんだか少し、ボーッとした雰囲気をしている。


 少女は純粋そうな目で俺を見る。


「あの、たくさんご飯を食べさせてくれるって本当ですか?」


 ハティのやつ。何言いやがったんだ?


「えっと、魔法使いなんだよな? 一緒にクエストこなしたら、それなりに食べれるよ」


 俺は優しいお兄さんっぽく言ってみる。

 ご飯に釣られて来たのか?

 この子の将来が不安だ。


 ハティはドヤ顔のまま。


「この子、魔法使いらしいんだけど、ちょっと前にパーティに追い出されてからクエストに行ってないみたいで、ご飯を食べるお金が無いの。で、私がエルクに養われてる自慢したら、仲間になりたいって言ってきたの。ねぇ。仲間にしてあげましょうよ?」


 パーティに追い出された?

 俺が養う?


「ま、まぁ、一旦話を聞かせてもらっていいか?」


 少女はうなずく。


「私はリリアンといいます。冒険者になったばかりの14歳で召喚魔法を使えます。きっと役に立ちますよ! 今日の私は『本日の4種チーズと極厚ステーキ』が食べたいです!」


 この食堂で一番高いやつを食べたいだと?

 自己紹介は簡単に済ませて、なかなか言うじゃねえか。


 ただ、召喚魔法か。

 召喚魔法は他の生き物へ対価を払って呼び出す魔法だ。たいていの対価は魔力だけど、なかには寿命や財宝などを対価にするものもある。


「どんなのを召喚できるんだ?」

「ドラゴンです」

「よし。何食ってもいいぞ」

「ありがとうございます。すみませーん」


 リリアンはサーシャ先輩へ注文し、ニコニコ顔で料理を待つ。


 ドラゴンは最強種で有名だ。

 ベテランの金級パーティでやっと倒せるかどうかと言われている。


 アレンパーティにいたときに、一度だけ倒したが、なかなか苦戦した。

 その時はアレン達が強くなっていた頃で……まぁ、俺は見てただけだけど。


 適当に雑談していると、リリアンが注文したメニューが届く。

 リリアンは黙って食い始めた。

 チーズとお肉のうまそうな匂いがする。


 ハティがわけて欲しそうにリリアンを見つめているが、全く気にせず食べ進めるリリアン。

 リリアンは熱かったはずの料理を素早く食べ終わると、何かを思い出したかのように顔を上げる。


「あ、そうです。私は朝起きるのがとても苦手なので、部屋から勝手に運び出してくださいね」


 そう言って、俺に部屋の鍵を手渡してきた。

 無用心な子だな。


「おいおい。そんな簡単に部屋の鍵を渡すなよ」

「いいんです。ご飯を奢って貰ったし、あなた達は悪い人に見えません」


 んー。本人がいいならいっか。


「わかったけど、あんまり簡単に人を信用するなよ」

「はい。わかりました。でも、前のパーティでは、朝起きれなくて追放されたので、私なりの対策なんです」


 リリアンはフフンと言いたげな顔。

 朝起きれなくて追放?


「なんだ? 朝弱いのか?」

「はい。全然まったく弱いです。絶対に起きれないです」


 自信満々に言う。

 んー?

 この子仲間にして大丈夫か?

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