22.変な町で楽しそうにしてるじゃないの

 リリアンがサファイアちゃんの強さを語る中、俺の後ろの扉が開く。


「あ、ここにいましたか」


 シャイニングブルーさんだ。

 どうやら俺たちを探していたらしい。


 俺はリリアンの腕をむりやり引いて立たせる。

「どちらへ!?」と、引き止めようとしてくる灰色の皆さん。

 リリアンは「今日はここまでです。次回をお待ちください」と手を振る。

 また来る気かよ。


 俺はリリアンを引きずりながら、シャイニングブルーさんの後ろについて行く。

 アリアはクールなままについてくる。


 シャイニングブルーさんは、かなり奥の部屋へ案内してくれた。

 奥の部屋には灰色のローブのヒゲ老人がいる。


「よくぞ来た。同志よ。話は聞いておる。奴隷契約についてだな」


 すべてお見通しと言いそうなヒゲ老人。

 シャイニングブルーさんはペコリとして部屋を出ていく。

 俺たちもとりあえずペコリする。


「ふむ。そう緊張することはない。我らは同志であり対等な関係なのだ」

「いや、同志になったつもりはないけど。けど、聞きたいことがあるんだ」


 俺はハティの奴隷契約について説明をする。

 じいさんはヒゲを撫でながら。


「ふむ。奴隷契約は古代に生み出されたもので、魔法というより儀式に近いと言われておる。ここにはいくつか文献があるので調べてみよう。しばしこの里に留まるがよい。同志よ」


 なんとかなりそう。

 あと、同志じゃないと何度も言っているが聞いてくれない。

 いいけどさ。


 俺たちはペコリとして部屋を出て、廊下を歩く。

 リリアンがすぐ隣に並ぶ。


「良かったですね。ヤングイケイケコーンなら、きっと何かいい方法を見つけてくれますよ」

「ヤングイケイケコーン?」

「ええ。さっきのおじいさんの洗礼名です。この里で最年長なんですよ」


 ヤング……


 俺がヤングについてちゃんとツッコもうとした時、曲がり角から飛び出してきた灰色にぶつかった。

 衝撃は軽く、小柄だったのですぐさま抱きとめる。

 転んだら危ないよね。


 腕の中には、眼鏡でブカブカの灰色ローブを着た女の子がいた。

 リリアンくらいの年齢だろうか?


「すまない。ケガは無いか?」

「ああ。大丈夫です。私こそ考え事をしていた。すまない」


 しっかり抱きしめようとする俺を軽く押して離れる女の子。

 アリアの「見知らぬ場所でもすぐセクハラをするとは……」というつぶやき。

 リリアンは、眼鏡っ子を見て「あっ」と言う。


「ガイアサークルじゃないですか。久しぶりですね」


 眼鏡っ子が、眼鏡を直しながらリリアンを見つめ返す。


「おや? ブラックナイトメア? 久しぶりじゃないか」


 眼鏡っ子……ガイアサークルちゃんはリリアンの知り合いのようだ。

 ガイアサークルちゃんは何か思いついた顔で「フフフ」と笑いだす。


「いいところに。今から私の研究室に来るかい? 魔法陣に関するいいものが完成したんだよ。魔法陣好きだっただろう?」

「はい。行きます! でもですね、驚いてください。私、魔法陣で召喚できるようになったんですよ!」

「なんだって!? 素晴らしい。さぁ私の研究室で詳しく話を聞かせてくれ」


 ワクワク顔のガイアサークルちゃん。結構かわいい。


 俺たちはガイアサークルちゃんの研究室に行くことになった。

 目の前で楽しそうに話すリリアンとガイアサークルちゃんは、魔法陣の話に熱中している。

 リリアンは魔方陣トークが好きみたいだ。


 研究室に入ると、謎の道具や石ころや呪文っぽいのが書かれた布が散らばっている。


「ちょっと待っててくれ」


 ガイアサークルちゃんは謎の道具の山へ手を突っ込んで何かを探し始める。

 リリアンはニコニコしてる。


「エルク。不思議な道具がたくさんあってワクワクしませんか?」

「お、おう。そうだな。ワクワクが止まらねぇな」

「そうでしょうそうでしょう。ガイアサークルは魔道具研究で里でも1,2を争う研究者なんですよ。私の親友です」

「そうか。すごい親友だな」

「はい。手紙にエルクのことを何度か書いたので、知らない仲じゃありませんよ。なんでも話していいですからね」


 そうか。手紙か。

 ってなんて書いたんだ?


「なぁ、リリアン。俺のことは……」

「これだ! さぁリリアン。これをあげようじゃないか!」


 サファイアちゃんを語るリリアンのように、目をキラキラさせたガイアサークルちゃんが灰色の分厚い布を持っている。


「これは高い魔力伝導率の特殊な布で、魔法陣を書いておけば何度でも魔法を発動することができるんだ。魔法陣を何度でも使いまわせるし、すぐに発動できる優れモノさ」

「なんと! すぐにサファイアちゃんを呼べるなんて、とんでもないモノじゃないですか!」

「フフフ。そうだろうすごいだろう。魔法陣へ魔力を流す練習をすればうまく使えるようになるだろうな。今日から練習を始めるといい」

「ありがとうございます。すごいものを開発しましたねガイアサークル」


 満面の笑みを浮かべるガイアサークルちゃん。確かにすげぇ。


「で、このすごいのは何ていう名前ですか?」

「うん? 名前なんてつけてないよ。すごい効果がわかればいいじゃないか」

「そうはいきません! カッコイイ名前をつけるのです」


 ガイアサークルちゃんの肩をガッと掴んで、カッと目を見開くリリアン。

 少し恐ぇよ。


 ガイアサークルちゃんは少し考え、自信無さげに言う。


「えー。……じゃあ、『魔法陣特化型魔道布』でどうだい?」

「なんですかそれは? カッコワルイです。もっと……こう……。『ガイアサークル印のマジックサークル書き込み式キャンバス』なんてどうですか?」


 どっちも変だろ。長いし。

 しかし、お互い譲らずに口論を始める。

 アリアはあきれながら。


「わたくしは『ミラクルパワー』がいいと思います」


 道具の見た目や効果を無視してんじゃねぇよ。

 アリアは真剣な顔だが、もしかしてボケてるのか? 場をなごませようとしているのか?

「……どうでしょう? いい名前じゃないですか?」と言わんばかりの目をするアリア。

 本気っぽいぞ。


 布の名づけは殴り合いになりそうなほど激しくなっていく。

 アリアが「ミラクルミラクル」と言いながら参戦している。

 ……あっ。リリアンが拳を振り上げた。

 俺はその手を掴んで止める。


「使うのはリリアンなんだから、『マジキャン』とか短い名前でいんじゃね?」


 俺の案に動きを止めるリリアンとガイアサークルちゃん。


「おっ? いいですね。『マジキャン』にします!」

「ふむ。言いやすくていいな。素晴らしい。エルクはセクハラ以外にも才能があるようだな」


 セクハラ以外って……

 リリアンは手紙に何て書いたんだ?


 ガイアサークルちゃんは眼鏡のズレを直す。


「フフフフフ。私はまだまだ凄いモノを作りたいんだよ。なので、少し研究に協力してくれないか? 才能あふれる君たちから、新しい刺激を受けたいんだ」

「当然です。エルク。洗いざらい全力で協力してください!」

「ああ。いいけど、俺は普通の土魔法しか使えないぞ」


 俺は研究室内にある小さな砂場を触り、ボコッと椅子を作る。


「む? ずいぶんすぐ魔法を発動させているね。興味深い。あと、その砂は魔力を含む岩を砕いたもので、魔法で加工するには3倍ほどの魔力を必要とするんだがね」


 なにやら関心を持ったようで、眼鏡をクイッと上げるガイアサークルちゃん。真剣な眼鏡顔もグッドだ。

 俺はエルフに貰った指輪の力で魔法が強くなったことを教える。


「ふむふむ。とても興味深い。土魔法と魔法陣についても少し調べたことがあってね。良ければ、これを貰ってくれないか?」


 ガイアサークルちゃんは黄色い宝石が埋め込まれた指輪を手渡してくる。

 俺の手にガイアサークルちゃんの手が触れる瞬間、サッと手を引き、すぐさま俺から離れる。

 何かを警戒されている……リリアンの手紙になんて書かれてたんだ?


「これはゴーレムの魔法陣を刻んだ宝石だ。周囲にただよう土のマナでゴーレムを生成できるだろう。ただし、扱いが難しいし多くの魔力を必要とする。けど、君ならできるかもしれないね。練習するといいさ」


 ゴーレムか。いいね。

 これで俺も戦えそうだな。

 ニヤつきだした俺にアリアが言う。


「ゴーレムで女の子にセクハラすることで、1人ではできないプレイを楽しむんですね。わかりましたよ」


 んなわけねーだろ。

 リリアンにも聞こえていたのか、少し顔を赤くしている。


「私は硬く冷たい土じゃなくて、エルクのあったかい手で触ってもらうほうが好みですよ」


 ん? 触るのはオッケーってこと?

 どういうことか聞こうとしたが、ガイアサークルちゃんが別の発明品の紹介を始めたので聞けなかった。

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