20.仲間を頼って頑張りなさいよ

 俺は治療院でケガ人の治療を手伝おうとしたが、ほとんど終わっているらしく、できることはなかった。

 アリアがケガ人や他のシスターへ回復魔法を使い、一気に治療を終わらせたらしい。


 アリアって凄くないか? 俺への口は悪いのに。

 今のアリアは少しベッドで休んでいて、おだやかに眠っていた。

 流石に疲れたんだろう。


 俺は治療院を出て、ヒースルの中央公園へ戻った。

 サーシャ先輩はいなくなっている。仕事に戻ったんだろう。

 新店開店の準備で忙しい時期で忙しいだろうに、話を聞いてもらって本当に助かった。


 夕日は沈みかけて夜が近づく中、俺が女神サーシャ先輩へ祈りを捧げていると。


「エルクじゃないですか。こんなところで何してるんですか?」


 リリアンが声をかけてきた。


「あぁ、俺はちょっと考え事かな。リリアンこそどうしたんだ?」

「起きたら宿屋だったので、治療院? でしたっけ? そこへいって何かお手伝いしようと向かっていました。ハティやアリアはどこですか?」


 そういえば、リリアンは宿屋に置いてきてたんだ。

 俺はハティとアリアが治療院にいることと、ハティがアレンの命令で前のパーティの戻されたが、なんとしても救いたいことを伝える。

 聞いている途中、リリアンは「なんですかそれは!」と怒ってくれた。


「わかりました。どうやってハティを助けるか考えましょう」

「ありがとう。絶対助けような。で、奴隷契約ってどんなものか知ってるか?」

「奴隷契約ですか……首輪の魔道具を使った特殊な魔法ってことしかわからないですね。奴隷契約を解除するには主人の許可がいるしか方法はなかったはずですよ」

「だよなー。アレンがハティを解放するとは思えないし……うーん」


 リリアンがピコンと何か浮かんだ顔をする。

 お? 案外賢いリリアンさん。


「いっそのこと、首輪を壊しちゃいますか? 私のサファイアちゃんで吹き飛ばしたり!」

「あんなあぶねーのハティに向けられるかよ! ちょっとでもミスったらハティが消し飛ぶだろ!」

「ミスしないように気を付ければいいですよ。まずは、ハティが動かないようにエルクが体を抑えていればいいんです」

「俺もあぶねーじゃねぇか! って、体を抑えるときに堂々と触れる? 悪くないのかもしれない……」

「私の体を毎日ベタベタ触っておきながら、まだ触り足りないんですか!?」


 声が大きくなるリリアン。

 さっきより顔を近づけてくる。

 なんか怒らせた?

 そんな大きな目で迫られても、こわくないんだぜ。


「いやいや! 触り足りないとかそういう……」


 何か怒りを鎮めれる言い訳を考えていると。

 クールな声が聞こえてきた。


「おやおや。こんな人通りのあるところで痴話げんかのような会話が聞こえますよ」


 アリアだ。

 ジト目でこちらを見てくる。

 面白いものを見つけた目をしてる。


「エルクさん。はっきり言ってください。『俺は女の体ならなんでも触りてぇ獣のような男だ。ゲベベー』と」


 ゲベベってなんだよ?

 なんか力が抜けてきた。


「アリア。ゲベベーってなんなんですか?」


 リリアンも俺と同じツッコミを思ってか、あきれた声を返す。

 そうだよな。アリアって変だよな?

 リリアンは続ける。


「違いますよ。アリア。『俺は女なら触らなくても匂いだけで大興奮できる変態神であるぞよ。ギャベベーでしょう?」


 ……ギャベベーってなんだよ? 神クラスになるとそんな変なこと言うようになるのか?


「リリアンさん。ギャベベってなんですか? しかも神って……」


 神に仕えるプリーストのアリアとしては、黙って見過ごすわけにはいかないんだろう。

 アリアが言う。


「違います。リリアンさん。正しくは『俺は女なら視界にはい……

「それもういいから!」


 俺は2人を止める。

 俺を変態神にすんなよ。


「まったく……。そうだ、アリアは体やすめれたのか? 治療院でかなり頑張ってたんだろう?」

「はい。全員の処置は完了しました。後は自然に治るのを待つだけです」


 微笑みに少し陰がみえるアリア。

 治療院で結構無理をしたようだ。


 疲れているところ悪いが、俺はアリアへハティのことを説明する。

 話している途中に「それが聖女と共にいるパーティですか!?」と声を荒げてくれた。

 普段冷静なアリアの怒りに俺は安心感を覚える。


「アリア。何か助けれる方法ないか?」

「奴隷契約ですか……すみません。わかりません。わかりませんが、回復魔法をかけ続けると首輪が壊れたりしないですかね?」


 アリアも首輪を壊そうとしている。しかもリリアンと似たようにゴリ押しでだ。

 ま、リリアンの案よりはマシかな?

 俺たちが3人でウンウン悩んでると。


「あれ? ブラックナイトメアじゃないの? どうしたの?」


 声の方へ向くと、青く長い髪をしたお姉さんがいた。

 お姉さんは灰色のローブを着ている。灰色のローブって確か……


「おや。シャイニングブルーさんじゃないですか」


 リリアンが知っている人への口調で話す。

 知り合いか?


「やっぱりブラックナイトメアね。久しぶりじゃない。……なにか、お困りのようね」


 シャイニングブルーさんとやらは、頬に手をあてて俺たちを眺める。

 俺たちの様子から、どんな悩みなのか予想をはじめているようだ。

 リリアンは俺の袖をひき。


「エルク。シャイニングブルーさんに相談しましょう。夜明けのルシファー教団なら何かできるかもしれません」


 夜明けのルシファー教団……。

 あー。

 灰色のローブは夜明けのルシファー教団が着ているローブだ。

 怪しいことをしている変な宗教だった気がするけど。


 シャイニングブルーさんは髪をかき上げ、両手を広げる。


「我ら夜明けのルシファー教団は迷える人々を救うことを使命にしております。困っていることがあるなら、ぜひお話しください。必ずやお力になれますよ」


 キメ台詞をキメポーズで言ってきた。

 なんかうさんくさいな……。

 前に見かけた信者は、人をだまそうとしてたり、ネコをさらったりしてたような。


「リリアン。このシャイニングブルーさんとは前からの知り合いなのか?」

「ええ。前に何度かお世話になっていました。……そういえば言ってなかったですね。私の生まれ故郷は夜明けのルシファー教団の隠れ里にあり、シャイニングブルーさんとは里でも仲良くしていましたよ」


 リリアンが夜明けのルシファー教団の生まれとは。

 でも、ローブは黒いし今までそれっぽいことを言ったことは無かった気がする。


「でも、私は夜明けのルシファー教団の信者ではありませんよ。実家が里にあるだけで、生まれた時に変な儀式を受けさせられただけです」

「またまたぁ。ブラックナイトメア。いつでも信者として再洗礼を受けていいのよ。私たちはいつでも戻ってくることを待っていますからね」


 ふーん。

 まぁ、シャイニングブルーさんは悪い人じゃなさそうだな。


 ってか、ブラックナイトメアとかシャイニングブルーってなんだ?

 魔法にありそうな名前だ。


「リリアン。そのブラックナイトメアってなんだ?」

「えっと、夜明けのルシファー教団における真の名前ですね。神様のルシファーが世界を救った後の新しい世界に住める人の名前らしいです」


 ほへー。そういう設定の宗教なのか。

 色々あるんだな。


「アリア。ちょっと話してみていいか?」

「わたくしは、話してもいいと思います。夜明けのルシファー教団は独自の魔法研究もしていると聞きますので、何か方法を知っているかもしれません」


 前向きなアリア。

 ついでに前から気になっていたことを聞いてみるか。


「なぁ。アリア。アリアは聖ユリス教だよな。奴隷や他の宗教についてどう思ってるんだ?」

「わたくしは聖ユリス教のプリーストではありますが……少し特殊でして。……また機会があればお話しいたします。とりあえずは、悪く思ってはいませんという回答でどうでしょうか?」


 うーん。なんか事情があるのか?

 ただ、今まで一緒にいて悪いこと考えてそうに思えないんだよな。

 俺が死にかけたのを救ってくれたこともあるし。


「あぁ。悪いな変なこと聞いて。話せるようになったときに教えてくれ。これからも頼むな」

「はい」


 アリアは微笑む。

 どこか安心しているように見えるのは気のせいだろうか。


 さてと。ダメ元でハティのことを話してみるか。

 俺はシャイニングブルーさんへハティのことを話した。




 ――――




 シャイニングブルーさんは静かに聞いてくれた。


「なるほど。我らが同志の中に解決できる者がいるかもしれません」


 少し考えた後、いい返事をくれる。

 おんなじ宗教の人を同志って言うんだな。色々考えてる宗教だ。


「では、我らが里に案内しましょう。ブラックナイトメアもたまにはご実家に顔をだしてはいかがですか?」

「そうですね。久しぶりに両親と姉に会うのもいいかもしれません」


 リリアンにお姉ちゃんなんていたのか。

 美人だといいな。


「手紙だけでは伝えられないこともありますからね。エルクのことも紹介したいです」

「ん? リリアン、俺のことはなんて手紙に書いてるんだ?」

「いつも私の背負ってくれる英雄って書いてますよ。ちょっとエッチですけどね」


 ニヤリとするリリアン。

 俺が尻触ってるのバレてる!

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