8.この魔女っ子やるじゃないの

「どうです? 私のドラゴン強いでしょう?」


 黒いドラゴンはグルルゥと鳴いた後、消えていった。

 ドラゴンがいた場所には魔法陣が描かれている。

 リリアンが魔法陣を描いて召喚したらしい。


 ドラゴンが消えた直後、リリアンは自慢げに言ってくる。

 確かにつえぇ。


「しかも、かわいいでしょう?」


 またも自慢げに言う。

 かわいい? 頭のリボンのことか? リリアンがつけたってことか?

 めちゃくちゃ強そうなドラゴンにあのリボンは似合わないと思うんだが。


 エルフ幼女を助けたハティが腕組みしながら近づいてくる。


「なかなかやるわね。私の指示通りでとても素晴らしいわ。なんといっても私の指示があったから悪魔を倒せたわね。うんうん。っていうことは、私が1番強くてかわいいってことよね?」


 謎の確認をするハティ。

 俺は「はいはい強いしかわいい」と適当に言っておく。

 ハティは「よろしい」と言った後、リリアンへドラゴンについて尋ねる。


「さっきの、黒いドラゴンだっけ? なんて名前なの?」


 リリアンはいまだにドヤ顔をキープしたまま答える。


「いいえ。名前はありません」

「そうなの? 強そうな名前つけたほうが絶対いいわよ。んー。そうね。目が青かったから......サファイアね」


 ハティは3秒で考えたような名前を言う。

 リリアンはハッとした表情になる。


「いいですね。サファイア。サファイア……サファイアちゃん! いいです。とてもいいです」


 リリアンは気に入ったのか、頬を赤くしている。

 エルフ幼女は目をキラッキラ、ほっぺを真っ赤にしてリリアンを見ている。


「寝てたお姉さんすごいね。助けてくれてありがとう。あのおっきいドラゴンすごかったね。あ、そうだ。お礼にいいものあげる」


 エルフ幼女は自分の指にはめていた指輪を俺とリリアンにくれる。

 緑色の宝石が埋め込まれた指輪だ。どんな効果があるかわからないから、とりあえずポケットに入れる。

 リリアンはすぐに指にはめている。

 危機感の無いやつだ。


「それすごいんだよ。むかしの物だからボロっちぃけど、すっごい魔法を使って世界を支配した国王と女王の指輪なんだって!」


 国王と女王の物だから、似たような指輪が2個あるのか?

 でも、ハティには無いんだろうか?


「ちょっと! 私には無いの?」

「うー。ごめんね。ハティ様。とっておきのを持ってくるから待っててね」

「私にはとっておきをくれるのね。わかったわ。早く取ってきなさいな」


 エルフ幼女はペコペコ謝った後、泉へ走って入っていく。

 エルフは水中でも自由に動けるって言われるけど、息を大きく吸い込まずに泉へ入っていくのに少しびびった。


 俺がビビっていると、リリアンが大きな声を出す。


「すごいですよ。この指輪。魔力の高まりを感じます。さらに強いサファイアちゃんを召喚できそうです」


「アーハッハー」と高笑いをし、魔力を高め続けるリリアン。周囲が魔力に反応してバリバリいい出して、簡単な電撃魔法を使ってるようにも見える。

 リリアンは初めて魔法を使ったかのように大興奮し、笑い声もどんどん大きくなる。


 わかるよ。その最強になったような感覚。

 俺も初めて魔法使った時はそうだった。




 ――――




 持ってきた食料を食べながら待っていると、エルフ幼女が泉から出てきた。

 手には色々持っていて、ガチャガチャ音がしている。

 リリアンはテンションを上げ過ぎたのか、すこしどんよりした顔をしている。

 エルフ幼女はハティへ銀色のガントレットを渡す。


「ごめんね。ハティ様。はいこれあげる」


 右手の形をしているので、片手しかないんだろう。

 ハティがバルログを殴ってたから格闘家と勘違いしたんだろうか?

 ハティが魔物を攻撃したのはさっきのが初めてだけど。


「ありがとう。大切にするわ。で、これ何?」

「これはね。ブンナグルっていって、悪い奴を勝手に攻撃してくれるし、聖なる魔法で攻撃するすっごい武器なんだよ。すごいでしょ」

「そう。よくわからないけどすごいわね」


「でしょー?」というエルフ幼女。

 俺とリリアンにも何か渡してくる。


 俺には綺麗な剣で、リリアンには茶色いマントを渡してきた。


「お兄ちゃんのはなんでも切れる『エクスなんとかー』って剣で、お姉ちゃんには透明になれる『なんとかかんとかのマント』だよ」

「名前うろ覚えだな。まぁ、ありがとう」


 俺は試しに木の根元に剣を当てると、なんの手ごたえもなく木を切断できた。

 切れ味凄すぎるだろ。うっかり触らないようにしないと危ないな。


 リリアンはマントをつけると、姿が見えなくなった。

 声だけ聞こえる。


「これ。どうなってるんですか?」

「あー、見えなくなった? そこにいるのか?」

「はい。動いてませんよ。そうですか。透明ですか。いいですね。これで魔王城に行ってサファイアちゃん召喚したら魔王討伐完了ですね。よし、今から行っちゃいますか?」


 ちょっとトイレ行ってくるわ。みたいな気軽な調子で言うリリアン。

 リリアンって結構ノリ軽いな。

 でもまぁ、確かにこれならやれそうだ。


 俺が本当に魔王を倒して、使いきれないほどの報奨金を貰っとくか考えていると、泉が波打ってきた。

 なんだ? と思い泉を見ていると、中からエルフ幼女に似た服を着たお姉さんが出てきた。


「探しましたよ」


 疲れた顔のエルフお姉さん。

 両手をヒラヒラ振っているエルフ幼女。


「わっ。キカグラウィ。これは違うの。全然違うの」

「……詳しくは帰ってから聞かせてもらいます」


 エルフお姉さん。キカグラウィさんは俺たちと、俺たちの持つ武器を見て眉をピクリを動かす。


「私はこの方の侍女を務めているキカグラウィと申します。すみません。この子が渡した物を返していただけますか?」


 俺は素直に剣を返す。

 リリアンは……リリアンがどこにいるかわからないが、返そうとしているのか?


「嫌です。これは私のものです。これで好き勝手やります」


 リリアンの声だけが聞こえる。

 いや、返せよ。


 キカグラウィさんはエルフ幼女へ小声で何か話をしている。

 キカグラウィさんこちらへ向き。


「スリープ」


 ドサッと音がするほうを見ると、リリアンが茶色いマントをつけて地面に倒れている。

 駆け寄ると、スースーと寝息が聞こえる。

 どうやら、眠るとマントの効果がなくなるようだ。


 キカグラウィさんはリリアンに近づき、マントと指輪をはぎとっていく。


「では皆さん。そろそろお帰りください。この森は我らエルフだけの森なのです。他の種族が居ては困ります。あと、この森のことは他の人には話さないようにしてくださいね」


 キカグラウィさんのクールな笑顔には無言の圧力がある。

 俺は大人しくうなずいて、リリアンを背負って光の門へ行く。

 ハティも荷物を背負って後をついてきた。


 エルフ幼女が光の門に触れると光りだす。

 エルフ幼女はさみしそうな笑顔で別れの挨拶をする。


「外の世界のこと教えてくれてありがとう。お兄ちゃん。次会うときは私のことを色々教えてあげるね。ハティ様や寝てるお姉ちゃんもまたお話ししようね」

「あぁ。またな。でも、外は危ないから勝手に出ちゃダメだぞ」

「またね。あんたも私みたいに強くなっときなさい。それで、私の護衛をすればいいのよ」


 エルフ幼女は口に手を当てて笑顔になる。


「ふふふ。うん。強くなったらお兄ちゃんやお姉ちゃんの仲間に入れてね。わたしがハティ様を守ってあげる」

 俺たちは最後に手を振り、光の中へ歩いていった。




 ――――




 光を抜けると、ナックルベアーが襲ってきた森だった。

 光の門の光は消えて、ただの空洞になっている。


「よーし。帰るか。って、クエストで受けてた薬草見つかってねぇぞ」

「まーいいじゃないの。お宝貰ったんだから」


 あ、そういえば返し忘れたのがあった。

 途中でリリアンが変なことするから忘れてた。

 俺はポケットに入れたままの指輪を取り出す。


 ハティは背負っていた荷物をガサゴソし……『ブンナグル』を取り出す。


「あれ? それ返してなかったのか?」

「う? うん。そうよ。たまたま偶然、私の荷物に入ったままだったの」


 汗をかきながら苦笑いのハティ。

 これは、確信犯ですね。


 その時、ナックルベアーが唸り声をあげて正面から飛び出してきた。

 どうやら俺たちを待ち伏せしていたようだ。


 俺は魔力増強っぽい指輪の効果を試すため、地面に手をつく。

 ハティはガントレット。『ブンナグル』をつける。

 と、ハティがナックルベアーへ走っていく。


「おい。魔物に突っ込むなって!」


 俺はいきなり動いたハティを注意する。

 ナックルベアーのでかい腕がハティを叩き潰そうと振り下ろされる。

 まともに戦ったことのないハティじゃあ、ひとたまりもない。

 俺は間に合うかなんて気にしないで魔法を使おうとするが、ハティは自然な動きでナックルベアーの腕をかわした。


 そのままナックルベアーの顔をブンナグルで殴る。顔に当たった瞬間に弾けるような光がブンナグルから放たれた。

 殴られたナックルベアーは倒れ、動かなくなる。


 少し様子をみるが、全く動かない。

 一撃で倒したようだ。

 ハティが汗をたらしながら俺へ振り返る。


「み、見た? エルク。私って最強無敵格闘王かもしれない。どうしよう? ファンが増えそうよ?」


 いや、ファンなんていねぇだろ。

 俺たちは、なにやらすごい武器を貰った……パクってしまったようだ。

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