第9話 主人公は突っ込みスキルを使い、更に泥沼へ
「今日は久々に全員集合ですねっ!」
そんな太陽の元気な言葉と共に先輩主導の下、部室では『新入部員歓迎会』が開催された。
太陽の言う通り、夜さんのバイトや雨さんの生理休暇で中々揃わなかった俺達は約一週間ぶりに全員が部室にいた。
「ほら、今日の主役は二人だよ、座って」
雨さんがエプロン姿でウェディングケーキを運ぶ。
しかもエプロンの下は裸だった。
「ほら、私って大将だから。野に咲く花のように」
もう既に意味がわからないが俺は気にしない。
今日はせっかくの祝いの席だ、多少の事には目を瞑(つむ)ろう。
「凄いです! ウェディングケーキ! これはアタシとお兄ちゃんの結婚式も兼ねてるんですよね!?」
「危ぶむなかれ、危ぶめば道は無し、乾杯」
太陽の妄言は無視され、雪さんが突然乾杯の音頭を取った。
っていうかそれは音頭なのだろうか。
しかも排泄音まで聞こえてくる始末だった。
しかし祝い事なので俺は気にしない。
「イランカラプテ」
「イランカラプテ」
雨さんと夜さんはアイヌ語で祝杯をあげた。
何の儀式なんだこれは。
しかし祝い事祝い事祝い事……
「じゃあお兄ちゃん、今すぐこの蝋燭をアタシのお尻に突っ込んでください!」
「ちょうど良い、太陽。うちの会社で作った爆竹浣腸の試作品を持っておる、試してみろ」
「ちょ、爆発して直に効くですか!? それは危ないですよっ! さぁ! 早く夜さん! 突っ込んでください!」
ズボッ
「ブロリーッッ!!」バチバチバチバチ!
「ふむ、火薬の量が多すぎる。改良が必要だな」
「出したらお腹が空いた、れいん。ケーキ」
「駄目だよ雪ちゃん、まずは太陽ちゃんと響木君にあげるんだよ~」
「こうすれば全部私の」ブリブリ
「あっ! ケーキにうんちが混ざっちゃった! これでチョコケーキだね! じゃあ私は逆におしっこをかけてレモンケーキにするよ」
「その一足が道となる」
「あっ! 違う液体も混ざっちゃった、これじゃあ潮の風香るシェフの一品レモンケーキだよ~」
「はぁはぁではわたくしが雨のレモンケーキ頂くわはぁはぁ」
いつの間にか、雨さんの親衛隊の女の子も混ざっているがそんな事は最早どうでも良くなる光景が繰り広げられていた。
駄目だ、このままじゃ正気を保てなくなる。
人でなくなってしまう。
そう感じた俺は気を落ち着かせるため外へ出た。
*
「ふぅ……」
部員全員(プラス親衛隊長一名)が暴走モードに突入してしまったためひとまず木々を見て気を落ち着かせる。
この木々のざわめきだけが俺の癒しスポットだった。
この調子だと会が終わるまでには皆が覚醒モードに入ってしまうかもしれない。
「………」
俺はある考え事をしていた。
今この部活に必要なもの。
それは顧問でも歓迎会でもない、俺の覚醒が必要なんじゃないのだろうか。
そう、『突っ込み役』
この部活に決定的に足りていないのがそのポジションだ。
だから皆が自由にやりたい放題やって暴走してしまう。
ボケっぱなしを止めるには誰かが『欧米か』と突っ込んでやらなければならない。
やれやれハーレム無双系からはちゃめちゃが押し寄せてくる系主人公にクラスチェンジを果たした俺だったが、更にもう一段階クラスアップする必要があった。
俺は意を決して部室へ戻った。
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