第14話 エロ漫画なみにギリギリの線を攻めすぎて逆に不気味になるおはなし〈部屋の怪〉


-カズトの家-


「ひどいですよっ! お兄ちゃん! 危うく留置所で過ごすところでしたよっ!」


 俺の家だというのに何故か一行を出迎えたのは犯罪者だった。

 どうやら警察からは逃げきったらしい。


「でも太陽さんそういう辱しめとか好きそうじゃないですかどMなんですから」

「はっ! そういえば……取り調べと称してかつ丼まみれにされるあたし気持ちいいっ!?」イグッ!?


 日本の警察に謝れ。


「しかしおかしいな、出る時ちゃんと鍵かけたはずなんだが…」

「昨日の夜からベッドの下にいましたから、さぁ入りましょう」


 さらっと都市伝説みたいな事をいってのけた太陽だった。

 とりあえず精神がぎりぎりだったので、もう何も言わず部屋へ案内した。


--------------


-カズトの部屋-


「わぁ、ここが響木くんの部屋なんだぁ! 綺麗だねっ!」


 部屋に入りがてら雨さんは嬉しそうにはしゃいだ。


「私、男の人の部屋に入るのも初めてだから何かドキドキもするよ~…………」


 それは光栄な事だったが、とりあえず俺は部屋にいる上での一番の危険人物……部長【白磁雪音】さんをマークして隣に座る。


「? どうしたのカズト?」


ピトッ


 予想以上に近寄ってくっついてしまったがそれも仕方ない。

 抑えるポジションにいないと部屋にう○こを撒き散らかされないからだ。


「?」


 近寄っても嫌そうな顔をせず、きょとんと天使のような無垢な瞳で俺を見つめる雪音さん。

 本当にう○こさえ撒き散らさえしなければ天使のようなのに。


「ずるいです、部長! じゃああたしはお兄ちゃんの膝の上に座るです!」

「じゃあ~私はぎゃく隣に座るねっ」

「ではうちはカズトを抱くように後ろに座ろう」

「じゃあ私は寝ますね、あっ、ベッド響木くんの匂いがします」くんくん……


 待て待て待て。


「べ、勉強しに来たんですよね? これじゃあ出来ませんよ」

「違いますよっ! 今日はお兄ちゃんとイチャイチャしにきたんですっ!」


 膝に乗っていた太陽はそう言いながら振り返る、至近距離だったので唇が触れ合いそうだった。


「お兄ちゃん……恥ずかしいですけど……触ってください…」


 そう言って太陽は俺の手を取り、俺に身体を預けたまま自分の白い太ももを触らせた。

 滑らかなその肌触りは、細い見た目に反してまるで幼児の餅肌のような弾力を弾ませる。


 待て待て待て。


「これじゃあまるでラブコメで官能小説だ、何が狙いだ?」

「お兄ちゃん雰囲気台無しですよー、さぁ! 続きするです!」

「じゃあ……私は……首元にキスマークつけちゃうよっ!」


 そう言って雨さんは俺の首元を吸いはじめる。

 髪から漂う華やかな香りが鼻腔を漂う。まるで蜜を吸う蝶のように、可憐なピンク色の唇が必死になって俺の首を吸っているという事実が俺を興奮させた。


「するかっ! い、一体何を企んでるんですいきなり雨さんっ!」


 これは精神を削る最低のファンタジー作品のはずだ、何をいきなりドタバタラブコメディにしようとしている。

 作者が突然テコ入れでも始めたのだろうか?


「きっと原因はあれですよ」


 特にテコ入れに興味なさそうにベッドに寝る林林は置いてあったスラ○ダンクの柔道の話の巻に『やっぱりスラ○ダンクは柔道編が至高』とか油性ペンで書き出した。

 こいつは本当に人の神経を逆撫でするのが上手い。

 俺を含め全国のスラ○ダンクファンを敵に回したな。

 それ以前になに人の私物に落書きしてるんだ。


「あれって何だ?」

「ドアから響木くんのお母さんが覗いてます」


 ドアの方を見ると1cmくらいの隙間から貞子みたいな目が覗いていた。


「ぎゃあっ!?」


 思わず漫画でしか使わないような驚きの声をあげてしまった。


「な、何見てるんだ母さん」

「あらあら、ばれちゃったわね~」


 響木 清花(きよか)37歳 俺の母が部屋に飲み物とお菓子を盆に乗せ入室してくる。

 事前に玄関先で自由部部員は一通り挨拶をしていた。

 昔から周りにも、部屋に行くまでの階段で自由部部員達にも言われたが優しそうでとても美人らしい。血が繋がる俺にはよくわからない感覚だが。


「あ! お義母さんどうもです!」

「お義母さんありがとう」

「義母上さま、お気遣い有り難く存じます」


 自由部部員はそれぞれがおかしな呼び方をして母さんに媚を売る。


ちゅぱっ


「んまっ、お義母さんありがとうございます!」


 遅れて雨さんが挨拶をする、まだ吸い付いてたのかよ。

 俺の首には特大キスマークがつけられていた。


「あらあら、改めて見ると可愛い子ばっかりね~カズ君やるじゃない~」


 そうか、何か皆大人しいし狂ってないと思ったらこいつら猫被っていやがったのか。


(将来のあたしのお義母さんに変な姿は見せられないです!ここはアピールしておかないとです!)キラッ

(うんこいびとの母、青雲それは君が見た光)プウッ

(財閥の娘であるうちが今のところ一歩有利だ、ここはやはりお金持ちアピールをするべきだろう)チャリンッ

(響木くんのお母さん……緊張するなぁ~、結婚前だけどやっぱりちゃんとしないといけないよねっ)どきどき

「バスケットマンだからだぁ!? くそがっ!!」ギリリ


 何かそれぞれがそれぞれに勝手な事を思っているような気がする。

 そして林林はそんな事に興味ないようで、柔道よりバスケを選んだ主人公に怒りを燃やしていた。

 こいつはバスケに何か恨みでもあるのだろうか。


 そんな思いを余所に四人の部員の猫被りアピール戦が始まった。


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