第6話 大和撫子の見せるギャップに癒される的なお話 そのいち
~翌日~
-通学路-
「ふあぁ……」
朝、登校していると大きなあくびがでる。
まぁ人があまりいない道なのでいいだろう。
俺は響木一斗。
汗美っ所利高校に通う新一年生だ。
汗美っ所利高校って何なんだ。
登校日初日に衝撃的な部活に出会った俺は何やかんやあってその部活『自由部』に入部をした。
入学式を含めれば今日で登校四日目。
それなのに体は異様に疲れていた、眠気に包まれているのも季節のせいだけではない。
「あっ! お兄ちゃんだ! お兄ちゃんお兄ちゃん!」
疲れの原因の一人、同学年の自由部部員【紅太陽】が駆け寄ってくる。
同学年という事もあって部活以外でもよく会う。
「お兄ちゃん通学路一緒なんですね! これから一緒に登校しませんか!?」
好意をもってくれているのかわからないが人懐っこい犬のように、出会って三日目にしてよく俺になついてくる。
見た目は可愛らしいし、元気のいい彼女になつかれるのに男だったら誰もが少なくとも悪い気はしないのだろうが……正直彼女の本性を知る俺にとっては勘弁してほしかった。
現に彼女は猫のように
人の家の塀の上を当たり前かのように通学していた。
「ここ以外を渡ったら死ぬゲームです! よーいスタート!」
そう言って彼女は忍者のように塀の上を走り
「火遁! 豪火球の術!」
と言いながら口いっぱいに含んだレモンティーを撒き散らし
猫と喧嘩しながら地平線へ消えていった。
この疲れをどうしたものかと考えていると
「何だ、騒がしいな」
まつたけ商店と書かれた看板の店の扉から見知った顔の店員が現れる。
「何だ、お主か」
出てきた店員は自由部部員【黒檀夜永】さんだった。
「高校生にもなって道端ではしゃぐんじゃない」
はしゃいでいたのは俺ではないし夜永さんに言われたくないのだが、叱咤されたのでとりあえず謝る。
「夜永さん、その格好……」
どう見ても客ではない、Tシャツにエプロン姿、黒のスラックス姿だった。
「うむ、ここでバイトをしている。早朝からな」
そう言って夜永さんはエプロンを外す。
揺れるポニーテールに豊満な胸、まるで新婚の若妻のような色気があった。
「店長、もう登校時間だ。一旦あがらせてもらうぞ」
少し開いた扉から中の様子が伺える。
地方にある個人商店と同じような広さで、しかし中には雑誌、惣菜、飲料、カップ麺など簡易的だがコンビニに負けないくらいの品揃えだった。
中から中年(50代くらいだろうか)で恰幅の良い女性が現れる。
「お疲れ~夜永ちゃん。あれ? こちらの方は……彼氏さん?」
店長と呼ばれた女性がニヤニヤしながらこちらを見る。
「ふふ、まだそんな関係ではない。部活の後輩だ」
一応軽く自己紹介する、人の良さそうなおばさんだ。
しかし、登校前からバイトに勤(いそ)しむという事は家庭に色々と事情でもあるのだろうか。
「そういうわけではないがな」
そうだった、この人は普通に心を読むんだった。
「ここは先代からうちの家族と仲良くさせてもらってる店でな。うちの矯正のために働かせてもらっているのだ」
「矯正?」
「うちは昔から調子(テンション)があがると滅茶苦茶な戦いを始めてしまうらしいのだ」
夜永さんは何故かセルゲーム時の悟飯みたいな台詞を言った。
「卒業するまでに矯正せんと家系を継げぬものでな」
「家系?」
「夜永ちゃんの家はいくつも会社を抱える財閥なのよ~」
店長さんが嬉しそうに語る。
「ここで庶民の感覚を学び、経営を知り、まともな人間になるように勉強させてもらっているというわけだ」
成程、初めて聞く情報が多く混乱したが概ね理解する。
つまりここで社会勉強をしているという事か。
「店長、授業料だ」
夜永さんはポケットから札束を取り出した。
「ヒャッハー世の中金だぁ! これからもお願いしますよ! ヘヘヘッ」
人の良さそうなおばさんが豹変して、姑息なコソ泥みたいな下卑た笑い方をする。
授業料って何の事だろうか。
「金銭は受けとっておらん、むしろ授業料をこちらから払っておるのだ」
そんな雇用形態は初めて聞いた。女子高生を働かせたうえに百万円くらい徴収するとは人として大丈夫なのだろうかかそれは。
まぁそれはともかく外で会う夜永さんは
至って普通の勤勉な人だった。
確かに初めて会った時もテンションがあがって豹変した時以外は極めて母性の高いまともな人だった。
俺は安堵する。
異常者しかいない部活の中で、間違えなければようやくまともに話ができる人を見つけた事に。
カサカサカサカサカサ……
その時店の中から何か黒いものが足元を這って出てくる。
ゴキブリだった。
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