お見送り
ついに4月17日土曜日、両親が出発する日になった。
現在、午前10時。新幹線で行くため、駅まで車で向かっているのだが、1つ予想外のことが起こっている。
なんと古筆さんの車に乗せてもらっているのだ。
「無理言ってごめんねー」
「ぜ〜んぜん。これぐらい大丈夫よ」
前方で笑顔で話す母達を見ながら私と父は顔を
下げていた。
「私達どころか娘まですみません……」
「いえいえ、お気遣いなくー。
駅に車を止めるとけっこうお金かかります
からねー」
「本当にありがとうございます……」
ちなみに父は今回の同棲については「志織と似たタイプの子なら大丈夫じゃないか?」と、まさかの賛成派だった。性格の相性が大事なのはわかるが、その前に異性ということは気にしないのだろうか。
父なら反対してくれるのではないかと少し期待していたのでショックを受けた。
駅につくまではほぼ母と古筆さんが交代交代に喋り立てていた。学生時代の話に花が咲いたようだ。後部座席の私達には何が何やらさっぱりだったので、窓の外の景色を眺めたりボーッとしたりしていた。
駅についてからは少し早めのお昼を構内のうどん屋さんでとった。お店から出ると古筆さんが心配そうに母に尋ねる。
「今、10時半だけど時間は大丈夫?」
「うん。11時20分のだから」
「でも少し早めに行っておいた方がいいと
思う……」
父が控えめに言った。もともと喋るのは得意ではないようで特に家の外に出ると今みたいなボソボソとした話し方になる。
私の性格その他は父の遺伝が強いのは間違いない。
母が少し首をひねりながら口を開く。
「うーん、そうね。お菓子とかも買いたいし」
「じゃあ行きましょ!けっこう種類あるから迷うと思うよ」
「そうなの⁉よし、行くわよ!」
母達は目をキラキラさせながら早歩きで進み始めた。気分は学生に戻っているかのようだ。
「女性は怖いなあ……」
「そうだね……」
「荷物こっちに預けっぱなし……」
父は悲しそうに両手に持ったスーツケースを
見せてくる。
「でも見失っても困るから行くしかないと思う。
私どっちか持つよ」
「さすがは神」
(家だけかと思ったら外でも言った。
よし、置いていってみよう)
私は半ば強引に父から小さい方のスーツケースを奪い取ると二人の後を追う。
「冗談なので待ってください」
大きいスーツケースに翻弄されながら追ってくる父を見て私はため息をついて足を止めた。
母達は改札前のお土産コーナーに寄っていた。キャピキャピとはしゃぎながら商品を吟味している。
レジの店員さんが一定間隔で2人を見ていた。40超えの2人が若者のようにはしゃいでいるのは、彼らの目にも少し異常に映るようだ。見た目で判断するのは失礼だが、そう思われるのも無理はない。
私が店員でも隙があれば凝視すると思う。
ところが当人達は全く気づいていない。
「いたね……」
父が困り顔で呟く。2人の元に行くかどうか迷っているようだ。決めるのに時間がかかると読んだ
私は、苦手だが提案してみることにした。
「ここで待ってようか。あの場に飛び込む
勇気ないし」
「うん……」
20分ほどして母達は戻ってきた。テンションも
下がったようで落ち着きを取り戻している。
「今。11時過ぎたよ」
また父が控えめに言うと母はしっかりと頷いた。
「じゃあ、行こうか。よろしくお願いしますね」
「任せといてー。半年後よね?」
「うん。また近くなったら連絡するから。
志織も困ったことあったら連絡ちょうだいよ!
行ってきまーす!」
口早に言うと母は笑顔で改札を通っていく。父はゆっくりと私達に一礼して、慌てて母の後を
追った。
「一方的に話して行っちゃった……」
「まあ、それだけ楽しみなんじゃないかな〜。
お菓子選んでるときもルンルンだったもの」
「そうなんですね……」
楽しみと聞いて1つ予測が立った。父の出張についていくと家の事をしばらく忘れられるから
テンションが高かったのだろう。
(ほぼ毎日ご飯と弁当作ってくれてるし、
気分転換になればいいな)
改札から両親の姿が見えなくなると、古筆さんは私に向き直る。
「それじゃあ行きましょうか、志織ちゃん」
「はい。よろしくお願いします……」
(あ、今度は私の番……)
両親が居ないという実感がだんだん湧いてきたのと同棲の不安から、少しお腹が痛くなってきた。
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