ショッピング

 「思ってたより複雑な地形」


 コンビニの駐車場の隅で地図アプリを見ながら

呟く。

 私と古筆君の家は直線上で200メートルぐらいの距離だったが住宅街で道が入り組んでいるため、

それ以上距離があるように感じる。


 「そろそろ行かないと」


 腕時計を見てもまだ10時20分だが、迷ってもいいように出発することにする。地図アプリを頼りに

しながら行くとはいえ、ジャッスコウを目的地に

設定しても20分しかかからない。普通の人から

したら20分はけっこうな時間かもしれないが、

移動手段がほぼ徒歩の私にはなんてことない。 



 少しだけ迷ったが無事にジャッスコウ東側の入り口に辿り着いた。綾はまだ来ていないみたいだ。

まだ時間にも余裕があるし、待つのは平気なタイプなので気長に過ごすことにする。

キョロキョロと周囲の様子を観察していると明るい声と共に綾が小走りで向かって来た。


 「お~い、詩織〜」


 手を振り返す。綾の服装は上は肩の膨らんだ

ピンクのシャツ、下は白いミニスカートに

ハイソックスだった。相変わらず派手だ。むしろ、シャツにズボンというジミな服装の私が隣にいていいのか不安になる。せめてスカートにタイツにしておけばよかっただろうか。

 ちなみに綾に彼氏はいない。性格的にもいそうな気がするがまだいない。これには私もビックリしている。 


 「ごめん!待ったよね?」


 「少しね。でも、待ち合わせの予定の時間より

早いから大丈夫だよ」


 チラリと腕時計に目を向けてから答えた。10時45分。全然余裕だ。

 綾は少し恥ずかしそうに瞬きを繰り返す。


 「そ、そう?ありがと」 


 「お礼言うことじゃないと思うよ。そもそも綾は遅れることなんてないし、私待つのは平気だから。30分ぐらいは大丈夫だよ」 


 「待ちすぎ待ちすぎ!ウチなら10分でギブだわ!」


 大げさにリアクションしてから笑う綾を見ているとなんだかホッコリする。


 「詩織のそういうとこ面白いわ〜!

で、どうする?もう行く?」


 「う、うん」


 「よっし!何買おうかな〜!」


 意気込んでいる綾に遅れないようにファッションエリアに向かった。毎回お店巡りはランダムなのだが、これだけは欠かせない。私は流行りにはそこまで興味はないものの、勉強にはなっている。

 

 「じゃあ、いつも通り自由行動ね!1時間ぐらい

目安に!」


 「うん。また後でね」


 ゆっくりと服を吟味する。ピンクや黄色など明るい色の服が目立つが、私はどちらかといえば苦手だ。マネキンに着せられている服も上は黄緑色の薄い生地のカーディガンに中は白いシャツ、

下はピンクのロングスカートだった。


 (いかにも春って感じ。私には眩しいかも)


 「お~い」


 振り向くと綾はが手を振りながらこちらに向かってきていた。もうカゴに3着ほど衣類を入れて

おり、決めるのが早い。


 「詩織も何か買ったら?」


 「気に入ったものがあればだけど……」


 横目で服を見ながら言う。すると水色のワンピースが視界にに入った。下にいくにつれてグラデーションで薄くなっているし丈もヒザ下まであるし、

惹かれる。

 目を逸しているのがバレバレだったようで綾が

嬉しそうに声をかけてきた。


 「買っちゃえば?」


 「え?でも、着るかわからないし」


 「次来たらないかもしれないよ?買っちゃえ

買っちゃえ!」


 綾の言うことも一理ある。それに私はなかなか

惹かれる服を見つけられず、結局買わずに帰ることが多い。綾が嬉しそうなのは私が気になる服を見つけたからだ。たまには買うのも悪くないと思う。


 「じゃあ私はレジにお会計済ませてベンチで待ってるね」


 「えー⁉1着でいいの⁉」


 「うん。他に何か買うかもしれないから」


 「そう。じゃあまた後でね!」


 綾は笑顔で言うと服を選びに戻って行った。

 レジでお会計を済ませると近くのベンチに座って袋に入れられたワンピースを眺める。


 (2000円ちょうど。お手頃な値段。せっかくだから今度のショッピングのときに着てみようかな)


 綾はまだ時間が財かかりそうなので布の中身を

確認することにした。まだ5000円あるし、予備に

1万円も持ってきている。大金を持ち歩くのは不安で仕方がないのだが、途中で足りなくなるよりは

いい。それにさっき綾に言った、他に何か買うかもしれないというのは間違ってはいない。なぜなら、どこかの雑貨屋さんで古筆君にプレゼントを買う

つもりだからだ。深い意味はなく、社交辞令だ。


 「ありがとうございました〜」


 店員さんの声にハッとして顔をあげると精算を済ませた綾が手を振っていた。急いで財布をしまって傍に行く。


 「お待たせ〜。お昼ご飯食べよ!ちょうどいい時間だし!」


 「うん。何にする?」


 「この間はフードコートで食べたよね。う~ん……」


 2人で悩んだ挙げ句、イートインスペースのあるサンドイッチ屋さんにした。お昼というよりは軽食だが、私たちにとっては充分な量だった。

 店を出て時計を見ると12時半を指していた。通行人の邪魔にならないところに移動して、これからのお店巡りについて話す。 


 「じゃあ今からはテキトーに見て回ろ!気になる店あったら教えてねー」


 「うん。あ、さっそく寄りたい所あるんだけど」


 「お、どこどこ?」


 自分で言うのもなんだが、私からの提案は

珍しい。綾が興味津々で言葉を待っている。


 (雑貨屋さんに寄らなきゃ。確か近くにあった

はずだし)


 「ざ、雑貨屋さん」


 「おー、いいじゃん。マグカップでも買う?」


 てっきり嫌がられるかと思ったが心配しすぎ

だったようだ。ホッと息をつく。


 「いや、マグカップじゃなくても、何かいいのがあればなって」


 「ふ~ん。とりあえず行こ!……左?」


 「たぶん……」

  

 1階は素通りすることが多いので不安だった。

しかし、注意深く看板を見ながら歩いていると雑貨屋さんの看板が視界に映る。通りに面した棚には新生活応援!と書かれたPOPと共に生活用品や文房具が陳列されていた。他にも雑貨屋さんはあるのだろうが、この店で買いたいという気持ちが湧く。


 「綾、ここでいい?」


 「いいよー!ウチも気になってたんだー。

カワイイのいっぱいあるもんね」


 「ありがとう」


 さっそく店内を見て回る。商品はどちらかといえば女性向けの物が多く、選ぶのに苦労しそうだ。

男子が好みそうな物を買うと怪しまれるので両親に送る、というテイで選ぶことにした。


 (古筆君は何だったら使うんだろう?)


 失礼な言い方だが、普通の男子には当てはまらないようなので迷う。今見ている黒いマグカップを渡しても使われない可能性が高い。古筆君が水以外

飲んでいるのを見たことがないからだ。場所を移動してみても、かわいいストラップやアロマなどが

目立つ。


 (選ぶの難しい。あ、シャープペンとか文房具

なら確実に使うよね?メモ帳がいいかも)


 本を読むのなら抜き書きをするときにメモ帳があれば助かるはずだ。

 さっそく文房具コーナーに移動して棚から紺色のを手に取ると背後から声がかかる。


 「お、メモ帳じゃん。自分用に?……にしては色暗めじゃない?」


 「お、お父さんに渡そうと思って!お父さんメモ魔だから!」


 「へー、そうなんだ」


 父がメモ魔なのは全くの嘘だ。ついでに近くに

あった色違いの黄色の手帳も手に取る。


 「2つってことはお母さんにも渡すの?」


 「うん。頑張ってくれてるから。これぐらいしかできないけど」


 「そう考えれることがスゴイわ。ウチにとって親はいなくなられると困るけど、できる限り近寄ってほしくない存在」


 「な、なるほど……」


 たぶん綾は絶賛反抗期中だろう。私には理解するのが難しいが、いろいろ大変だなと思った。


 「じゃあレジに行ってくるね」


 「了解〜。ウチはこの辺うろついてるから」


 店の奥にあるレジは空いていた。レジのお姉さんに商品を渡す。


 「プレゼント用ですかー?」


 思いもよらないことを聞かれて頭の中がパニックになる。


 (プレゼント⁉一応渡すからプレゼントにはなるよね?)


 「あのー?お客様?」


 「え、えっと、紺色の方だけラッピングって

してもらえますか⁉」


 「大丈夫ですよー。お会計650円になりますー」


 無茶な注文だったかもしれないのにお姉さんは笑顔で引き受けてくれた。仕事だからといえばそうなのだろう。

ちょうどお金を渡すとレシートを渡される。


 「ラッピングするので少々お待ち下さいねー」


 そう言うとお姉さんは手際よくラッピングを始めた。あっという間に緑色の包装紙に収まる。


 「お待たせしましたー」


 「あ、ありがとうございます」


 「こちらこそ、ありがとうございましたー。

またお越しくださいねー」


 お姉さんに頭を下げて綾と合流し、店を出る。

腕時計を見ると午後2時を指していた。お昼を済ませたのが12時半頃だったので、1時間半いたことになる。


 「けっこう見て回ってたね」


 「そうだねー。ウチは何も買ってないけど見てるだけでも楽しかったから」


 「綾は行きたい所ないの?」


 「うーん、特には。ウチの1番の目的は服だからね。そういう詩織は?」


 数秒固まる。本屋さんにも行きたかったが、

プレゼントを持っているので次回にまわすことに

した。


 「服と雑貨買って満足しちゃった」


 「そう?まだ時間はあるんだけど、ウチ、なんか

今日は疲れちゃってさ。いつも通りなのにね」


 綾が苦笑する。もしかしたら体調が悪いのに、

無理して来てくれたのかもしれない。


 「もう今日は帰ろっか?綾が風邪ひいてもいけないし」


 「あはは、風邪じゃないと思うけどね。でも本当にひいても困るからここまでにしよ!

 じゃあまた明日ね〜。困ったことあったら

言いなよ〜」


 「うん、ありがとう。また明日!」


 申し訳ないがまだ古筆君と同棲しているなんて

言えない。私の気持ちが落ち着いたら言うつもり

ではある。

 綾と別れて一息ついてから重大なことに

気づいた。


 「帰り道、どうしよう」

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