クラスメート兼幼なじみ

 学校に着いて昇降口で靴を履き替えていると明るい声が飛んでくる。振り向くとクラスメート兼幼なじみの江繋綾(えつなぎ あや)が毛先が軽く

カールした肩まである髪を揺らしながらこちらに向かってきていた。

 

 「おっはよ〜、志織」


 「おはよう、綾」


 彼女は私とは真逆で超ポジティブだ。私達の関係は、幼稚園の時に綾が男子の嫌がらせから私を助けてくれたこと

から始まり、それ以来何かと気にかけてくれている。

 高校に入ってから綾の交友関係が広くなったため話す回数は減ったが、時々今みたいに話している。


 「なんかいつもより増して暗くない?」


 (す、鋭い!)


 そして他人の変化によく気づく。性格と相まっておちゃらけているように見えるが、隅に置けない。

 嘘をついてもムダなのはわかっているので正直に話すことにした。


 「明日から両親が出張でいなくなるから、

少し寂しくて……」


 「マジ⁉早く言ってよ〜」


 「え」


 戸惑っていると綾がキラキラと目を輝かせながら

顔を近づけてくる。


 「だって何日か親いないわけでしょ⁉

サイコーじゃん!」


 「そうなの?」


 「そう!親なんて、ああしろこうしろってうるさいだけ!」


 「うーん……」


 共感できる部分もあるが、はしゃぐほどではなかった。もしかしたら綾の両親は厳しめなのかもしれない。

 少し考えていると彼女が驚くような言葉を口にした。


 「土日だけでも志織の家に突撃しよっかな〜」


 「えっ⁉」


 (土日か。少しは古筆君の家に慣れておきたいから、土曜日の夕方に来てもらうとして。日曜日は

夜ご飯食べてから帰ってもらおうかな。

あ、でもそうなると迎えに来てもらわないと――)


 「ダメならやめとくけど?」


 自分で思っていたよりも真剣な顔つきをしていたようで、綾が怪訝そうに尋ねてきた。


 「え、いや大丈夫!」


 「本当に〜?」


 「う、うん!ただ、日曜日は夕方ぐらいには帰ってもらえると助かるかな。次の日学校だし……」


 焦りながら言うと綾は残念そうに眉を下げた。


 「んーやっぱ、突撃するのやめるわ。

その代わり土日どっちか買い物行こ!」


 この辺りで買い物といえばジャッスコウという大型ショッピングモールだ。2年前にできたばかりで、連日人が絶えないらしい。

 正直、人の多い場所は苦手だが、気を遣わせてしまったし、せめて償いをしたい。


 (土曜日は見送りだから日曜日の方がいい……)


 「じゃあ、日曜日でいい?土曜日は用事がある

から」


 「日曜日ね。了解っ!いつものとこ集合ね」


 「わかった。なんかごめんね……」


 つい癖で謝ると綾が笑う。


 「いいよー。むしろウチがワガママ言っただけだし。急に一人でとか大変だもんね?まぁ、ウチは家で一人で過ごしたことないからわからないんだ

けど……」


 「あ、綾?話してくれてるところ悪いんだけど」


 私は申し訳無さを感じながら腕時計を見せた。

8時15分。いつもなら教室に辿り着いている

時間だ。


 「まだ15分だよ?ホームルーム始まるまで10分も……あっ、志織は教室にいる時間か!」


 「う、うん……。ごめんね」

  

 (鋭さがいつもより光ってる……)



 教室への道のりを早歩きで進みながら、綾が思い出したように声を上げた。


 「あ、もしなんか困ったことあったらウチに言って。できる限り手伝うからさ」


 「うん……いいの?」


 「もちろん!志織のことだから大丈夫だとは思う

けど」


 「あ、ありがとう」


 気持ちは嬉しいが油断はできない。


(親が半年も居ないことはもちろん、男子と過ごすなんて知られたら詰む!)


 彼女は口は堅いため、うっかり誰かに言いふらすことはない。だが、代わりに毎日のように私に心境を聞いてくるだろう。それに耐えられなくなる自信がある。


 (でも、こういうのってだいたい本人に

悪気はないんだよね……)


 思わずため息をつくと綾が心配そう覗き込んで

くる。


 「それで不安になりすぎて体調悪くなって

んの?」


 「え、そんなことないよ。大丈夫大丈夫!」


 慌てて笑顔で答える。


 「ならいいけどさ〜。志織はキツくても無理するタイプでしょ?それがちょっと心配」


 「それは気をつける……」


 以前、委員会の仕事を頑張りすぎて3日寝込んだことが

あった。本来は昼休みだけでいいのだが、その日、司書の立花先生に本の修理のやり方を教えてもらった私は、作業が楽しすぎて放課後もやっていた

。それを数日続けた結果、寝込んだのだ。

 母に「社会人じゃないんだから」と呆れられたのは言うまでもない。


 「この辺りでウチは先に行くわ。

あ、何度も言うけど一緒にいるのが嫌とかじゃないからね!」


 「うん、わかってるから大丈夫」


 「ホントありがと〜!じゃあ!」

 

 そう言うと綾は小走りで教室に向かっていった。

 綾の交友関係は彼女と似たような人達。つまり私とは正反対の性格の人ばかりで、彼等はいくつかのグループを作っている。そのため、私といると「何で一緒にいるんだ」とよく思われないらしく1度しつこく聞かれてしまったそうだ。

 その時は嘘の言い訳でどうにか乗り越えたみたいだが、グループの中で注意人物に入れられたらしい。


 (綾の方が先に行った……。

迷惑かけるぐらいなら私とは付き合いをなくしても

いいんだけど)


 それでも綾は私に声をかけてくれていた。

 理由を尋ねると「だってずっと友達でしょ?」と真顔で答えられて以降、この類の会話はしないようになった。


 (綾なりに何か考えはありそう。

でも悪い方向ではないはず……)


 たぶん幼稚園の時に言ってくれた「ずっと友達」という言葉を守っているのだと思う。

モヤモヤしながら教室に向かった。

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