ゴールデンウィーク前日①

 4月29日金曜日の昼休み。

いつものようにガランとした図書室のカウンターで、本を読みながら小さく息をついた。


 (トラブルが起きないのはいいことなんだけど)

 

 学校生活は何の問題も起きることなく過ごせていた。

古筆君も当たり前のように図書室に通っていて、

今日もすでに隅の方で読書をしている。 

 ふと、バタバタと聞き慣れない足音が聞こえたと同時に、見慣れた顔がドアから覗いた。


 「やっほ~、志織!」


 「綾!?」


 思いがけない人物の登場に声が裏返る。

危うく椅子から転げ落ちるところだった。


 「め、珍しいね。綾が来るなんて」


 「んー、ちょっとした気分転換。たまにはこういう場所も悪くないかなって。あっ、でもすぐ帰るからね!ウチうるさいし!」


 「声のボリューム抑えてくれるなら、いても大丈夫なんだけど」


 綾はちゃんとルールはわきまえている。

 チラリと周囲の様子を伺ってから小声で話しかけてくる。

 

 「ちょっと聞きたいことあってさー。志織はゴールデンウィーク何するの?」


 「ゴールデンウィーク?……あっ!?」


 (すっかり忘れてた!)


 それにしても今聞くことなのだろうか。

驚いて固まっている私を少し呆れた顔で見ながら、綾が話を続ける。


 「志織の両親ってもう帰ってきたの?」


 「ま、まだ。長引いちゃってるみたいで。予定よりかなり遅くなりそうって」


 半年も出張とは言えず、咄嗟に嘘をついてしまった。

綾は全く怪しんでいない様子で瞬きを繰り返す。


 「そうなんだー。ウチ、泊まりに行っていいかな?1日だけ」


 「え」


 予想外の提案に頭が真っ白になった。

しかしすぐに1つの思いが中を支配する。


 (実は古筆君の所に居ることだけは言えない!)


 いつかは言わなければいけないが、まだ言いたくない。

必死につなぐ言葉を考えていると不安そうに眉を寄せている。


 「やっぱり迷惑?」


 「いや、迷惑じゃないけど、けっこう散らかってるから……。

今日からバタバタ片付けたら2日目には泊まれるよ!」


 「そう?じゃあ2日目に突撃していいの?」


 「う、うん!」


 大きく頷くと綾はようやく微笑んでくれた。


 「よし!じゃあ楽しみにしてるからね〜!」


 綾はいつものテンションに戻ると手を振りながら出ていった。

安心して大きく息を吐く。


 (何とかバレなかったみたい。

 1日だけだし、古筆君にはしっかり説明しよう)


 予定を聞かれたわけでもないし、ゴールデンウィークの実家帰りぐらい許してくれると思う。

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古筆君はそっけない 望月かれん @karenmotiduki

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