第5話 闇の華
―――12年前―――
結月本家に悲報が流れた。
結月沙那恵が自ら命を絶ったと――。
沙那恵は詩織の義理母、結月
彼女は、神に愛された子として大切に育てられていた。その美しさと優秀さと持ち前の柔らかく、人当たりの良さから本家でも、重要な役割を任され幼くして幹部に昇進。本家幹部の年寄り方ら、からも1目置かれる存在だった。
一方の姉、華菜枝は幼少時より地味で目立たず、何をやっても身にならず、どこかオドオドとした引っ込み思案の物静かな性格故か、気味悪がられ嫌われ、時を同じくして生まれた双子の沙那恵とは差別され、到底、今の世では有り得ない酷い扱いを受け悲痛な幼少期を過ごしてきた。
――――どれほど、妹を羨んだか·····
――――どれほど、妹を憎んだだろう。
――――同じ血が流る双子なのに·····
――――何故こうも扱いが違うの?
どうして沙那恵だけ明るい陽の光の下で笑って幸せに暮らしているの?
私は、こんなにも暗くじめじめした薄暗い地下室で暮らしているのに·····隔離された本家の離れの牢屋のような小さな部屋。
両親は出来の悪い娘を恥ずかしいとさえ思い、親であることを放棄した。沙那恵を人目に触れることから遠ざけ投獄し家畜同然に扱ったのだ。
――――私は、生きる屍·····こんなに苦しんでいるのに、あの子は笑ってる·····。
―――ぱりんっ―――
何かが壊れる音がした。
華菜枝の心の中の鏡が割たのだ。
割た心の隙間に黒い華が侵食し、多くの憎しみが養分となり根を生やし深い深い闇を作った――――。
―――現在―――
「――違います·····。あの人は私の母ではありません!あの人を親だと思ったことはこの世に性を受けてから一度たりともないわ!!」
言葉の語尾に怒りの色が溢れ滲み出た。
「あの女の子とは思えないほど聡明だねぇ····君は沙那恵に似ているよ」
悲しげな遠くを見つめる眼差し―――。
不意に頬に触れられた彼の手の冷たさに、ビクッと身体が敏感に反応してしまった。スラリと長い手足に高身長。アクアグレーの瞳の色は、どこか神秘的だった。
服部は、詩織の瞳の奥を見つめ柔く微笑む。その大人な風貌に優しさが溢れた眼差し、ほろ苦い煙草の香りが、詩織の胸を高鳴らせ、それと同時に切なくなるほどの愛おしさが感じた。
「·····駄目だよ·····俺を好きになったら」
甘いセリフの中にさえ彼の冷めた何かが人を近づかせない独特のオーラを醸し出し【俺に近づくな】と、強い警戒心を露にした。だがしかし、そこにも彼が服部曜という男が、何かを必死に守ろうとしていると·····。強い信念があるのだと感じざるを得なかった。
――――彼の瞳の奥に秘めた哀しみは、海より深く·····そして、その深い海の底に招かれた者は、二度と地上へ上がることは難しい·····。誰もが彼を遠ざけ距離を置くなら、彼を誰が救い守れるというのだろうか·····。
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