第8話 導く光り
辿り着いた、その先に見えた景色は見覚えのある場所だった――――。
「·····ここ·····は·····」
ドアを開け車内にヒヤリと冷たい海風が流れ込み火照った身体を冷ましてくれた。
(ここは―――。この場所は、沙那恵、おば様が亡くなった場所·····。)
「·····当時、この場所で何が起き、何があったのか今となっては分からない。だれもが嘘つきで、真実は闇に埋れ、明かされることなく。ポロポロと手の隙間から零れていく。俺はね、今も沙那恵が亡くなった真相を追い求めているんだよ」
冷たい海風が詩織の髪を巻き上げ沈みかけた太陽の柔かな光が2人を照らす。
「同乗していた男は、俺の同僚の刑事であり。俺の友人だった―――。私情の縺れ?·····そんなこと、あるわけがない」
悲しみを帯びた感情が静かに溢れ。服部の表情に暗い影が帯びる。
「姫は、今日が何の日か覚えてる?」
(もちろん·····忘れもしない。忘れられる訳がない。今日は、おば様の命日だ――)
「今日は·····おば様の命日です」
――――当時の事件記録――――
結月沙那恵と同乗者の
目撃証言も数々上がった。
証言A「男の人と女の人が言い争っていて女の人は泣いてるみたいでした。男の方は怒ってるみたいで凄く必死に話してて少し怖かったです」
証言B「男の人が女性に何か強引に迫ってるように見え、女性が泣いてるように思えました。その時見えた気がしたんです·····なにか光る刃物みたいな物を!!」
証言C「ずっと岸壁付近に止まっていた車が、いきなり動き出し、スピードを上げ瞬く間にガードレールに衝突し、そのまま海に落ちていくのを見ました」
証言D「男女は最初、車の外で話してて結構、大きな声で言い争っていたので自分以外にも見ていた人は多かったと思います。そのうち、男性が女性を車に押し込み、運転席に男が乗り込んだ次の瞬間。車は猛スピードで走り出し勢いそのままにガードレールに激突し飛び越える形で落ちたの見ました。音も凄かったことを覚えてます」
この場所は恋人達にとって人気の高い絶景スポットだったため、数多くの似た様な証言があげられた。
目撃証言により、2人が乗った車が海中へ落ちことは明らかだった。すぐに警察は動き海の中の捜索が昼夜を問わず行われた。数時間後2人が乗った車が引き上げられた。
だか車内から見つかったのは1人だけだった。落ちた衝撃で硝子は割れ、海中に飛び出してしまったのだろうと見解にいたり捜索はされたが翌日から悪天候続きだった事も重なり捜索はやも無く終了となった。
車の中から発見された遺体は男性。持ち物から身元が明らかにった。
―――壮馬葵―――だと。服部も、彼の遺体と対面し彼本人である事を確認した。そして、彼·····壮馬葵が手にしていた、光る物の正体が判明した。
「―――なんだったんですか?」
服部は一瞬だけ天を仰ぐと·····。その物を詩織に投げ渡した。
「·····シガレットケース?」
それは百合の花の銀細工が施されたシガレットケースだった。
シガレットケースの裏を見ると、そこには文字と名前が彫られていた。
「――永遠の愛を誓う―――。sanae」
目頭が熱くなり涙が溢れた。―――涙は、止まることなく流れ続け頬を伝い落ちていく。
「これはねぇ·····沙那恵が、俺に始めてプレゼントしてくれたものでね。随分昔に無くしたと思っていたんだ。まさか――こんな形で帰ってくるとは――随分酷い仕打ちだねぇ」
(·····シガレットケースは沙那恵おば様か服部さんを想いプレゼントしたもの·····。でも何故これを壮馬さんは持っていたの?)
「何故?葵が、このシガレットケースを持っていたの?って顔してるねぇ」
「·····はい。純粋にそこが気になったので」
服部は一つ大きなため息をついた。
「――正確には分からない。でも一つだけ分かってる事がある·····このケースの中はね。枚扉になっていて他には見せられない物を隠せる仕掛が施されているんだよ。彼女好みの、繊細で細な細工に最初は俺も気づかなかったけどねぇ」
服部はシガレットケースの内側を器用に取り外すと、そのさらに奥の薄いガラスの板をズラし2枚扉になった中を詩織に見せてくれた。――――そこには――――。
「·····わたし?」
服部は静かに頷きそして、その写真の中の少女の写真を、取り出し詩織へと手渡した。
「·····そう。沙那恵が命を落としてまで守りたかったモノ。君だよ」
そこに映る幼き日の自分の姿。
笑顔ひとつない無表情な顔は、全てを諦め生きる気力を無くしていた。そんな当時の詩織の姿が、痛々しくも残酷に沙那恵の事件と繋がっているという現実を突きつけた。
叔母は何故、この写真を隠し。そして、何故、服部耀のシガレットケースを壮馬葵が持っていたのか?謎が謎を生み詩織を混乱の渦へと叩き落とした。
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