かくれんぼ

cherryblossom

第1話 星の声

遠い日の記憶·····


あの日、私は大切なモノを失った。



「あなたは今どこにいますか?」



不意に出た心の声が、あまりに冷たく·····


そして酷く醜く歪んで響た―――――。



在り来りな風景が、ゆっくりと流れる車窓から、移りゆく景色と夕闇のコントラストが眩く。儚くも美しいと思えていた、あの瞬間。幼心に感じた一瞬のトキメキは鮮烈に、私の胸を射抜いた。



彼との出逢いは偶然が生んだ


―――――賜物タマモノ―――――



生まれも育ちも生きる糧さえも私達は


あまりに違いすぎていた。



私達は巡り会うべきではなかった。


気づくには·····あまりに遅く―――――


そして、あまりに残酷だった。



数年前。当時、私は鎌倉に住んでいた。

ワケあって両親の元を離れ父方の祖父母が親代わりとなり私を引き取った。幼ながらに感じた家庭が音を立てて崩れる瞬間の音色は醜く雑音にしか聞こえなかった。


祖父母は厳しくも現実的で、生きる意味や誰かを思う気持ちの大切さを私に教えてくれた。その温かな愛は嘘偽りなく私を守る盾のように、強く大きく。そして、かけがえのない私の唯一の救いだった。



あの日は年に一度の夏祭が開催されていて私は、子供ながらに祖母から着せてもらったお手製の浴衣が嬉しくて、少しばかり気分が高揚し、浮かれていた。


それほど大きくない町内会の夏祭り。いくつもの屋台が並び子供達の笑い声がこだまする。松明の柔らかな炎が揺らめきながら祭りを彩り、華やかなお囃子の音色が祭りを一層盛り上げた。


―――ゾクッ―――


一瞬の鋭い視線。


見つめた先に【彼】がいた。


靡く艶やかな黒髪。切れ長の目は、眼光鋭く研ぎすまれたようにキラリと光を放っていた。


彼の見ていた方向に視線を向けると。そこには――祖父母がいた。



強い恨みが籠った…そんな狂気に満ちた瞳。その瞳には1点の曇りもない。彼の放つ独特なオーラは【美しかった】


ただ、ただ

美しいと感じてしまった。


その強く、激しい怒りに満ちた瞳が私を捉えて離さない。


本能剥き出しのまま、今にも食らいつきそう彼の眼差しが私の心に毒の華を植え付けた。


そして―――


私の心は奪われた。


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