6.
『あれが今回のターゲットだ! 二人とも、頑張ってくれよなっ』
水色でぷよぷよした、八坂星羅のサポポンが先導し、ネガエネミーの反応がある場所へと案内してくれる。
……それにしても。一口にサポポンと言っても、全く別の見た目であったり、その性格も様々らしい。どのサポポンも役目は変わらず、魔法少女のサポートが仕事であるらしいが……。
「うう……。やっぱり気持ち悪い見た目だなあ……」
「私もまだ慣れないわ。というか、見慣れちゃいけないわよ……こんなの」
目の前には、充血した眼球に、赤色の触手が後ろに伸びるように生えているという、ネガエネミーらしさのある、奇妙で不気味なのに加えてグロテスクさもある、それが浮かんでいた。
『こむぎ、一人で戦うのと共闘するのじゃ、勝手が違うと思うから……。「魔法少女は、互いに力を高めあえると同時に、相反するものでもある」――これを覚えておいて』
「うーん。分かったような、分からないような……。それじゃあ行ってくるね、サポポン」
こうしてわたしと八坂さん、二人の魔法少女は目の前に現れたネガエネミー――わたしのサポポンが言っていた補足情報によれば、『悲しみ』の感情が具現化したものらしい――の元へと向かう。
***
「あのタイプは何度か相手にした事があるけど……あれはとにかく『動きが速い』から気をつけて」
「わかりましたっ! 他に気をつける事は……?」
「速い以外は、特にこれといった特徴はない……って言いたいところだけど、同じ種類でもネガエネミーによって個体差があるから、くれぐれも油断は禁物ね」
わたし一人で戦っていた時は、まず様子を伺い、敵の特徴を確認するところから始まった。しかし、他の魔法少女……それも、経験豊富な先輩魔法少女の知識のおかげで、その必要がなくなった。
改めて。わかりきっていたような事ではあるものの……一人よりも二人なんだな、と実感した。
しかし、まだわたしは魔法少女についての知識については乏しい。あのネガエネミーも、初めて見るタイプのものだった。……そもそも、似たようなネガエネミーがいるという事さえ初めて知ったくらいだ。
知識で力になれない分、わたしは――戦闘面で力になろう。そう思った。
「それじゃ、まずはわたしが行きますっ」
「えっ、ちょっと――落ち着いて、まずは作戦を――」
知識では敵わない分、戦いでは良いところを見せたい。そして、力になりたいと――そんなわたしは、八坂さんの静止にさえ聞く耳も持たずに、そのネガエネミーの元へと飛んでいく。
そもそも。敵の特徴だったり、行動だったり、気をつけるべき事さえ分かってしまえば……今まで、わたしが戦ってきた通り。
その特徴に気をつけながら、ただ倒しにいくだけ。それに、攻めなければ――いつまで経っても戦いは終わらないのだから。ばっ! と前へと出ると、わたしは――
『――Deliele Ga Full Flowa【
胸の奥から溢れる『言葉』を紡ぎ――唱える。すっかりわたしの得意武器となった、槌のように硬く、剣のように長いフランスパンを魔法で焼き上げると――それを片手に、目の前でこちらを凝視する、グロテスクな眼球と向かい合う。
そして、最初に動いたのはわたしだった。向こうが素早いのなら、こちらも速さで。短期決戦を狙い、突撃していった。……しかし。
予想に反して、その前方にいた眼球が馬鹿正直に。まっすぐこちらに突進してきたのだ。それも、わたしの想像していた速さの、さらに上を行く圧倒的なスピードで。
「ま、まず……ッ!?」
わたしは咄嗟に、眼球の突進を避けようと左に逸れるが……その速さの前には間に合わず、右肩へと。見た目に反して硬いその眼球が、速度を乗せて思いっきりぶつかり、強打する。
「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
わたしはハンマーを振り下ろされたのような激しい痛みに叫び、初めて経験したその痛みに耐えられず、バランスも失い――そのまま地上へと落ちていく。そして、コンクリートの道路へと投げ出されようとした――その時。
ふわり……と、優しい感触に包まれる。
あまりの恐怖にぎゅっと瞑っていた目をゆっくりと開くと――そこには、呆れたような、怒ったような――そんな表情を見せながらわたしを抱き、地面に降り立った八坂さんの顔があった。
「だから落ち着いてって言ったでしょう……。貴方一人の時ならともかく、今は私も戦えるんだから。それとも、私じゃやっぱり頼りなかったかしら?」
どこか悲しそうな声で、表情で。そして、怒りも混じったような……そう言う彼女に、わたしは――
「い、いえ……。もちろん、そういう訳じゃないです。……ごめんなさい……」
もちろん、八坂さんは会ったばかりだとしても――頼れるわたしの先輩だ。……それでも、まだまだ魔法少女としての経験が足りないなりに、力になりたかった。……それだけなのに……かえって足手まといになってしまった。
全ては、自分が役に立ちたいと――つい、先走ってしまったからだろう。そして、一人の時は何とかなっていたからといって、わたしは心のどこかで調子に乗ってしまっていたのかもしれない。
ふと、サポポンの言葉を思い出す。
――『互いに力を高めあえると同時に、相反するものでもある』。
まさに、サポポンが言いたかったのはこういう事だろう。わたしが独断専行で向かっていったせいで。サポポンに覚えておいてと念を押された直後に、こんなことになってしまうなんて……。そう、わたしは深く反省する。
「大丈夫? もし無理そうなら、そこで休んでて。私一人でも何とかなるとは思うから」
「い、いえ! まだ戦えますっ」
「くれぐれも無理は禁物よ。……せっかく二人いるんだから、一人で先走らないで、もっと『連携』を大切にね」
「……はい!」
一人で戦っている訳じゃない。……そんな、とても当たり前の事を再確認させられたわたしは、再び立ち上がり――二人一緒に、飛び立った。
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