第一章 SchoolGirl. MagicalGirl.

1.

「でさでさ、駅前のソフトクリーム屋に行ったんだけど……そこがびっくりするほどおいしくて! 思わず『これは本当にソフトクリームなのか!?』って、二度見しちゃったんだよね〜」


「いいなあ、わたしも食べたいなあ……っ!」


 週半ばの昼下がり。わたしの住む鳴繰なくり市にある、ごくごく普通の中学校、そこの二年生の教室の一角で。


 毎度、席替えのたびに運良く隣同士の席である二人は、いつも通り――そんな、他愛もない話をしていた。


 迫真の演技と表情で、彼女が前々から気になって話題にしていた、駅前に新しくできた新しいソフトクリーム屋さんを語る、茶髪のツインテール少女は……小学校からずっと同じクラスの長い付き合いで、唯一無二の親友である風見かざみつばめ。


「次の日曜とか空いてる? 食べに行こうよ!」


「そうだなあ……朝はうちのお手伝いで忙しいから、お昼からになるけど大丈夫?」


 平日よりもお客さんが圧倒的に多い土曜と日曜は、わたしも手伝わないと開店までに間に合わない。遊びに行けるとすれば、昼のピークを過ぎたくらいからだ。


「相変わらず働き者だなーこむぎは。大丈夫だよ〜。じゃ、日曜日ね!」


 そんなわたしの事情も分かってくれている彼女は、快く承諾してくれる。


 わたしが家族以外であれば唯一、心を許し、悩み事も打ち明けられることが出来る、たった一人の親友。それがわたしにとっての、風見つばめという存在だった。


 ……そんな彼女にさえ、わたしが経験したたくさんの不思議な一連の出来事、そして『魔法少女』になったことを話していない。いや、


 魔法少女になったその日。初めての戦いの後、家路につくわたしに向けて、サポポンはこういった。


『こむぎが魔法少女であることはもちろん、魔法少女やネガエネミーの存在も。それに繋がるような事柄も、全て――秘密を守るために、絶対に関係のない人に口外してはいけない。

 もしそれが知られてしまったその瞬間、キミの魔法少女としての力、資格も、その記憶も。直ちに消えてしまうからね』


 ……これまで、優しそうだったその声から一転、重く、真剣な声で――そう念を押された。


 サポポンいわく、ネガエネミーや魔法少女の存在は、一般の人々には知られてはならない機密事項であるらしく……まあ、こんなことを話したところで、信じてもらえるかは微妙だが……ということらしい。


 つばめにはもちろん、家族にさえ話すことができないというのは、どこか心苦しいものだ。わたし自身は隠し事をしたい訳でもないし、こんな事になってしまって、話したいのはやまやまなのに……そうせざるを得ないのだから。


「うんっ! 楽しみだなぁ、ソフトクリーム」


 色々と考えてしまい、モヤモヤとした心が晴れることがなく――前のように、純粋に話し、笑うことができなくなっていた。隠しごとをしているという後ろめたさからなのか。


 話したいけど、話せない。わからない事だらけで不安なことも多いけど、相談できるのは今も隣で浮かびつづける、サポポンだけ。


 サポポンは魔法少女以外には見えていないらしい。……そうは言っても、周りに人がいるような状況では話せる訳がない。虚空に向かって話す、おかしな人に思われてしまうだろう。


 周りに誰もいない時か、魔法少女になっている時くらいしか、彼は頼りにならない。


 それに、サポポンとの付き合いも長くない。魔法少女だとかネガエネミーだとか、そういった話題ならともかく、そのほかの個人的な事情だとか、悩み事までを色々と相談できるような間柄ではないのだ。


 魔法少女になってから――誰と話すにも、なんだか距離が出来てしまったような気がする。


 今まで、そんな事を感じたことも思ったことさえもなかった家族に対しても、他には話せないような悩みも打ち明けられるたったひとりの親友、風見つばめに対しても。


『気にしすぎ』と言われれば、それまでなのかもしれない。しかし、魔法少女というイレギュラーな出来事がわたしの身に起こってから……どうも、みんなとの間に『壁』が築かれてしまったような……そんな気がしてしまう。


 魔法少女である自分と、それを隠して生きている普段の自分。一体、どちらが本当の自分なのか……分からずにいる。


 そして、それが――とても嫌だった。今も、普段通りに振る舞っているつもりではあるが、上手くできているのかは自信がない。


 せめて、この事を誰かに相談できれば。それさえも叶わない。……それが魔法少女なんだと、自分に言い聞かせる事しか出来ない。

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