10.
『魔法少女としての仕事はここまでだよ、こむぎ』
「うん、わかってる。魔法少女の事、バレちゃいけないもんね」
少し離れた屋根の上から、親友としてではなく――魔法少女として、わたしは風見つばめを見つめる。
本当なら、今すぐにでも彼女の元に駆け寄って、大丈夫? ……そう一言、掛けてあげたいが――わたしが魔法少女であること、そもそも魔法少女やネガエネミーなどの存在さえも知られてはならない。
魔法少女であるが故に――わたしは、彼女の元へと駆け寄ることさえ出来ない。
仮に、わたしが魔法少女であるとバレなかったとしても。何故、ここにいるのが分かったのか? そう問い詰められれば、わたしには答えようがない。
つまるところ、彼女にしてあげられるのは、サポポンの言う通り――『ここまで』、なのだった。
魔法少女であるわたしにできるのは、人々に危害を加えるネガエネミーを倒すことだけ。そこから先、人々に直接、手を差し伸べることはできない。……わたしが、魔法少女である限り。
今回の一件で――これが『魔法少女』と『中学生』の両立ということなのだと、そう実感する。
決して二つの自分が交わらない――二つを一緒にすることなんてできない、決して片方の事情をもう片方へと持ち込むことはできない。……それが未知なる力の魔法少女と、普通の中学生、普段のわたしの両立であると。
魔法少女のわたしは、中学生のわたしの世界へ踏み込み、助けることは出来ないし――逆に、なんの力も持たない中学生の時のわたしは、魔法少女の世界で戦うことなんてできない。
「ごめんね、つばめちゃん。魔法少女としてのわたしは見せられないから――また明日」
わたしの声が、つばめへと届くはずもないのに――そう言い残し、彼女とその傍のサポポンだけが感じている、極限までゆっくりと流れる時間の中で、風見つばめ、ただ一人を残して飛び立った。
また明日――明日は魔法少女ではなく、友達として。いつも通りの平穏な日々を過ごすために。
魔法少女のわたしが守り切った、大切な日常を――中学生のわたしが、過ごすために。『また明日』……そう一言告げて。
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