10.
「ところで……このコアは朝野さんが持っておいて。私はいらないわ」
大きな眼球が叩きつけられ、コンクリートがひび割れた跡の中心に落ちていた、青く光り輝くコアを、八坂さんが拾い――わたしに手渡してくる。
……しかし、せっかくの報酬を独り占めなんてできるはずもない。ましてや、八坂さんがいなければわたしはあのまま地面に叩きつけられて、死んでしまっていたかもしれないのに。
「そんな。一緒に戦ったんですから――半分こ、とかじゃダメなんですか?」
「残念ながらね。コアを割らずに半分ずつ分け合うことはできないわ。割ればエネルギーが漏れ出してしまう。
それに……もし分けられたとしても、これは朝野さんが持っておくべきよ。魔法少女になってから日も浅いし、ストックも少ないでしょ? 都市伝説と戦うなら、
「
魔法少女になった初日に、サポポンから聞いた話だ。……欲しい物とかは特にないし、何かが欲しくて戦っている訳でもないので、まだ実際に試したことはないけれど。
「そう。そして、これを応用すれば――コアのエネルギーを
わたしが一度八坂さんに返した青いコアを、彼女は再びわたしの左手を無理やり開いて――握らせてくれる。
「私はそこそこ蓄えがあるから、一個くらいどうって事ないわよ? だから気にしないで」
「……わかりました。大切にします!」
受け取ったコアを、口を開けて待機している、ジャムパンの見た目をしたわたしのサポポンに
「そうね。大切にしてくれたら私も嬉しいんだけど――でも、必要なときは迷わず使うこと。コアを持っていても、死んでしまっては元も子もない訳だしね……」
せっかく八坂さんから貰ったものだ。出来れば使わずに、大切に取っておきたいな、と。そう思うのだった。
***
それから。変身を解除して、元に戻った二人は――魔法少女である時間はほぼ時間が止まっているようなものなので、実際の時間で言えばまだ余裕はあったが……今日のところはとりあえず解散することにした。
「私はもう少し、命岐橋について調べてみるわ。……まあ、朝野さんの言う通り、ここに居てもこれ以上の情報は出ないと思うから、一応、ね。
もし、何か分かった事があったら連絡するけど……
「まぎ、ねっと……ですか?」
『――ボクに任せて!』
またもや初めて聞いた単語に、首を傾げるわたしの前に……ぴょんっ! と、唐突に飛び出してきたサポポンが、続けて――
『こむぎ、スマートフォンは持ってるよね。ちょっと貸してくれるかな』
「……? 持ってるけど……」
わたしは、ポケットに入れていたスマホをサポポンに渡すと――ぱくりっ! と、そのまま飲み込んでしまった。そんなサポポンの口は、もぐもぐ、もぐもぐと動きつづけている。
「あーーーっ!! わたしのスマホがーっ!!」
驚き、思わず大きな声を出してしまったわたしに、しいー、……と、八坂さんが慌てて静かにするように促す。
人に見られたり、魔法少女に関わる会話を聞かれないように、わざわざ誰も近寄らないような街の外れにまでやってきたのだ。その意味がなくなってしまうのは分かるけど……でも、目の前でいきなり自分のスマホが食べられて、驚かない方がおかしいんじゃ……? なんて思う。
続けて、冷静にもぐもぐし続けるわたしのジャムパン型のサポポンを見ながら。彼女は。
「大丈夫よ。多分
「……その、マギネット――って何なんですか……?」
今度は、八坂さんの影からやぶからぼうに飛び出してきた――スライムのようなぷよぷよのサポポンが、口を開き、
『Magi.netのインストール中は喋れねーから、このオレが説明してやるぜーっ!』
八坂さんの相棒である、見た目とは裏腹に強気な口調で話すサポポンは、もぐもぐし続けて喋れないわたしのサポポンの代わりに、長々と説明を始める。
……
…………
『でだ! 人間の作った電波に乗せてはいけないトップ・シークレットが山積みの魔法少女同士、安全に情報をやり取りする為に――』
長々と、自信満々に説明を続ける、ぷよぷよの方のサポポンに……ジャムパンの方、わたしのサポポンが呆れたように。
『ねえ。もうとっくにインストール終わっちゃったんだけど……説明、長すぎないかな』
『Magi.netの魅力を語り尽くすには一時間でも足りねーと思うけどなっ! ま、インストールが終わったってんなら仕方がねー! 実際に使って慣れていくんだなっ』
『そんなに長々と語れるような大それた機能なんて付いてないんだけどなあ。それじゃ、簡単に使い方を説明するね』
サポポンの手取り足取りで、戻ってきたわたしのスマホに追加された得体の知れないアプリ――『
見ると、国中で広く普及しているスマートフォンのアプリ――無料で通話やテキストのやりとりができるもの――にそっくりだ。所々、デザインだったり配置だったりは違えど、基本的な部分は変わらない気がする。
『使い方は、この国でメジャーな連絡用アプリに似せているから、なんとなくで分かるとは思うけど……魔法少女間のやりとりは、絶対にこのアプリを通してすること! もし、魔法少女の情報が漏れてしまったら大変だからね。このアプリは魔力で構成された、魔法少女専用のネットワークを使ってるから安心だよ』
「そうなんだ。それじゃあ、八坂さんと連絡を取るときはこのアプリを使えばいいんだね?」
「そういう事になるわね。私の
「……えーっと……これですか?」
「そうそう! …………さて、これでオーケーね。それじゃ、何かあったらこれで連絡するから、通知は絶対オンにしておくこと! もし画面を他の人に見られても、このアプリは魔法少女以外には見えないから大丈夫!」
「――それじゃ、次会う時――『都市伝説』との戦いの時かもしれないわね。さようなら、朝野さん」
「はいっ! 八坂さん、色々とありがとうございました! それではっ」
二人の魔法少女は、それぞれ反対方向へと歩きはじめた。
初めて話した、初めて一緒に戦った……他の魔法少女。わたしにとって、とても良い経験になったし、同じ魔法少女との繋がりが出来たこと。
今日一日、命岐橋についてはあまり芳しい結果はなかったが……魔法少女として、良い一日になったな――と、そう思うのだった。
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