第三章 Fifty-Fifty. Despair of Whale.
1.
――こむぎ、起きてっ!
日付も変わり、外も明るくなってきた頃……深く眠りについていたわたしを、揺り起こそうとするその声に――わたしは重いまぶたを開け、ゆっくりと起き上がる。
まだ鮮明ではない意識の中、続けて耳に入ってきたのは――
『――巨大なネガエネミーの反応だ! ……
サポポンの放ったその言葉。ここ最近ずっと、気にかけていた敵。それがついに現れたと聞くと、わたしの眠気は一瞬で吹き飛び――
「……行かないとっ!」
ベッドから急いで飛び起きたわたしは――ガチャンッ!! と、部屋の窓を大きく開け放ち、わたしの心の奥底に眠る魔法名をその口から紡ぎだす。
――【
そして、開いた窓に脚を掛け、まだ薄暗い外へと向かい、小麦色のショートヘアをなびかせながら――ジャムパンの見た目をした妖精、サポポンと共に飛び立っていく。
倒すべき敵である『ネガエネミー』……それを倒し、人々をその魔の手から守るために――
***
昨夜、
ここへとやってくるはずのもう一人の魔法少女――彼女を待つにしても、今の魔法少女の状態では時間の流れがゆっくりとなってしまうので、いつまで経ってもやってこないはず。なのでわたしは、一度変身を解くことにした。
変身を解いたわたしは、自分の姿を見てふと、ある事に気がつく。
「……あっ、いけない……急ぎすぎてパジャマのままだった――」
着ていた服だなんてお構いなしに、窓から真っ直ぐに飛び出してきたわたしは、すっかり寝る時に着ていたピンク色のパジャマのままだったのだった。
まあ、魔法少女に変身すれば関係ないし、大丈夫だろう。……そんな事を気にして、ふとつぶやいた――その瞬間。がしっ!! と、
そして、変身を解いた状態であるはずのわたしが、何故か
「――や、八坂さんっ!」
握られる手、その先を見ると……桃色の髪を伸ばし、ピンクの和服のような衣装を身に纏った――ここで集合する予定の魔法少女――八坂星羅と、スライムのような見た目のサポポンがそこにいた。
変身を解いてから、本当に直後だったので、つい驚いてしまったが……ゆっくりとした時間の流れと普通の時間の流れ、その両方に、同時に生きている魔法少女らにとっては普通の事なのだろうか。
まだ魔法少女になってから一週間のわたしは時間の感覚がおかしくもなるし、ごちゃごちゃになるしで……まだまだ慣れることはないだろうが……。
「朝野さん、おまたせ。……あっ、これは……魔法少女だけじゃなくて、その魔法少女が触れている相手も、同じ時間の流れに巻き込むことが出来るから……。つまり、これは時短よ、時短!」
互いに手を繋ぎ、少し恥ずかしさもあるものの――魔法少女である彼女が触れているおかげで、わたしも彼女と同じ時間の流れへと入ることができているらしい。魔法少女同士が合流する時は、毎回こうしているのだろうか?
わたしは、彼女に手を繋がれたまま、再び魔法名をつぶやいて魔法少女へと変身すると――
「準備はバッチリのようね。それじゃあ、行きましょうか。――命岐橋の元へ」
「……はいっ!」
この街に現れた、甚大な被害を与えかねないネガエネミー……『命岐橋』の都市伝説。
その強大な敵と戦うため、わたしたち二人の魔法少女は――わたしたち二人が初めて会った場所でもあり、その都市伝説の発祥の地であるその場所へと向かう。
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