7.
……ここは?
真っ暗闇の中。上をみても、下をみても、前後左右どの方向をみても。その視界の先は一面、漆黒で染まりきっていた。
どれだけ歩いても、叫んでも、飛んでみても。床と呼んでも良いのかわからないこの地面を叩いても、この黒一色の景色が変わることはない。
まさか、あのままアパートの中に引きずり込まれて、死んでしまって――もしかして、ここは死後の世界なんじゃ……? そんな、嫌な想像が頭をよぎろうとしたりするが、その時。
どこからともなく、聞き覚えのない声がこの暗闇へと響き渡る。
『信じてたのにッ……!』
悲しげな女性の声だった。その声の主が誰なのかはわたしは知らない。でも、その声を聞いたわたしまで、胸にガラスが刺さるような、そんな気分にさせられる。
「……これって……?」
それから間もなく、さっきと同じ人なのだろうが――さっきとは一変して、今度は――憎悪に狂い、果てるような激しい怒りに任せた叫び声が聞こえてくる。
『許さない……、許さない、許さない――ッ!!』
『絶対に復讐してやる、二度と浮気なんてできないようにッ! アハハハハハハハハハッ!!』
死ぬ前に見るらしい、走馬灯というものにしては、わたしの知っている声や記憶がどれひとつと聞こえないのでまず違うだろう。
そのどれもが『負の感情』に満ちたその声たちを聞き――わたしは一つの考えに辿り着く。
ネガエネミーは、負の感情が元となって生まれる。この元となった感情の持ち主――『浮気心』の持ち主である、その人の記憶――なのだろうか。
その浮気心から、苦しめてしまった相手の記憶が、ネガエネミーによって囚われ、今も苦しみ続けている。
――もし、そうならば。
「……助けなきゃ。このネガエネミーから、解放してあげないと」
このまま、ネガエネミーの中に囚われたその記憶を放っておく訳にはいかない。魔法少女であるわたしが、解放しないと――そう心に決めると、どれだけ進んでも暗闇が広がるこの空間で、再び立ち上がる『力』が湧いてくる。
確かに、真っ暗闇のこの空間に存在しているのは自分自身だけのようにも思える。出口もない、希望もない、永遠に広がり続ける闇に見えるだろう。
しかし、この場所に存在しているのはわたしだけじゃない。……わたしの心の奥に眠る『魔法少女』としての心、そして『言葉』は残っているッ!
再びわたしは胸に手を当て、静かに目を瞑り――その口から、胸に秘められた言葉を紡ぎ出す。
『――Deliele Ga Full Flowa【
わたしの胸の奥に眠る言葉は、歌へと変わり――溢れ出した力は、鋭い爪で引っ掻いていくかのように、四方八方へと次々に、その暗闇へと。それを照らす『光』によって、キズを付けていく。
バキバキバキバキバキッ!! と音を立てて、前後左右、天井も床も、傷だらけになったその全てにヒビが入り、スキマから光が溢れ――
ガッシャアアアアンッ!! 耳をつんざくような甲高い音と共に暗闇は砕かれ、まるで割れたガラスのように崩れ去っていった。そして、周りに――光が戻る。
「もしかして、これで倒した……? ――まあ、そんな簡単な話じゃないですよね……っ!!」
砕かれた暗闇。その周りに広がっていたのは――大量の武器だった。
――刀から投げナイフ、弓矢に拳銃、炎に水、パッと目に入っただけでもこんなにも。
見ている余裕さえないその奥にも、武器として思いつくもの全てと言っても過言ではないような、さっきは一つずつ相手にしていた、その武器一つひとつが束になって、わたしを待ち構えていたのだった。
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