終章 Sunday. After the Battle.
Epilogue Side.A
「今回の戦いも、みんな無事だった事を祝しまして……かんぱーいっ!」
月野宮市のとあるファミリーレストラン。あちこちにチェーン店を抱える、どこの街でも見かけるような有名店舗だ――その一角にて。
中身はそれぞれイチゴミルク、アイスティー、水。
「氷乃さん、ウチの奢りやから遠慮せんくても良いのに……」
「いえ。飲み物の中では一番、水が好きなので……。それに、私が注文した『プレミアム抹茶餅』も、中々の値段ですから」
「そうなん? まー、それならそれで良いんやけど、なんだかなあ……ちゅうう――っ」
そう言いながら、彼女は――冗談かと思うほどに大きなコップへ、満杯まで注がれたイチゴミルクをストロー越しにちょっとずつ、吸い続けている。
「まあ、確かに……水は美味しいわよね。分からなくもないわ」
「ウチが言いたいんはそういう事じゃないんやけどなあ……」
何というか……それぞれイチゴミルク、アイスティーと頼んでいるのに、一人だけ水というのもどうなんだろう? なんて思う。
「本当は朝野さんも来れれば良かったんだけど、家の手伝いなら仕方がないわよね……」
「そーやなあ。家の手伝い……パン屋さん……言うてたっけ? あの歳で凄いなあ」
祝勝会……のような物なのでもちろん、朝野こむぎも誘ったのだが……これからお店の手伝いがあるらしく、午後からはお友達との約束も入っていると言っていたので、またの機会にという話になった。
「ウチも食べてみたいわあ〜。二人は食べたんよね、朝野さんのパン」
「とても美味でしたよ。次は是非とも、朝野さんのお店で頂きたいですね」
「そうね。今度、三人でいきましょうか。私もまた朝野さんのパン、食べたいわ」
次は戦場ではなく、ゆっくりと。彼女の焼いたパンを食べに行こう。そう決意するのだった。
「お待たせしました、『プレミアム抹茶餅』と、『スペシャルカステラ』です」
激しい戦いの後に――のんびりと他愛のない話をしていると、時間の流れがとても早く感じるのだろうか。氷乃が注文した抹茶餅と、八坂が注文したカステラがそれぞれ運ばれてくる。が、しかし。
「ウチのはまだみたいやねぇ……」
蓮見の頼んだスイーツだけは、まだ来ない。
「そりゃそうよ……。あれは相当時間が掛かると思うわ。それじゃ、氷乃さん。お先に食べちゃいましょうか」
「それでは、蓮見先輩。頂きます」
二人は一緒に、スイーツを……ぱくりっ。
「うん、美味しいー! やっぱり、戦いの後はこうでなくちゃねっ!」
「そうやねえー。最後にやったのは六月だし、氷乃さんに至っては盛大にやるのも初めてやなあ」
『六月』――蓮見遥が魔法少女として死を迎えた、あの戦いの日。もう魔法少女にはなれなくなってしまった彼女は、戦いの後――普段と変わらず。今回のような祝勝会を開いたのだった。
蓮見遥が魔法少女になってから、都市伝説や噂といった、大きな敵を倒した後には決まって開いているのが今回のような『祝勝会』。
彼女が魔法少女ではなくなった今も、そしてこれからも――この街の魔法少女の間では、この慣例が受け継がれていくのかもしれない。
「……ってことは。ウチ、朝野さんばっかり気にしてたけど……氷乃さんも都市伝説と戦うのは初めてだったんやなあ」
「はい。正直、都市伝説が……これ程までだとは思ってもいませんでしたね。これからも日々、精進――」
「今回がイレギュラーなだけよ。氷乃さんも、朝野さんも――初めてなのに、私なんかよりも良くやってたじゃない。これじゃ、先輩としての顔が立たないわ……」
「ウチなんて、二人の面倒を見てただけやで……? ウチこそ本当に、立場ないわぁ……」
「いえ……蓮見先輩が都市伝説の違和感を感じ取ってくれたお陰で、今回のような不測の事態を予測する事が出来ましたので」
そこで、あっ……、と思い出したように。八坂星羅が口を開く。
「そうそう。確か私、朝野さんがいるからわざわざ隣町にまで氷乃さんが来ることはないって言ったのに……一体、どうして駆けつけてくれたのかしら……?」
二人があのネガエネミーに手も足も出ずに――そのまま倒されかけた所に駆けつけてくれたのが、氷乃京香と蓮見遥の二人だった。あの時は事態が事態だったので、疑問にさえ思わなかったが……よくよく考えると、色々と都合が良すぎる気がする。
「蓮見先輩が、都市伝説『
「他の都市伝説と比べて、広まるのが異様に早かったんや。パッと出て、ブワーッ! みたいな感じで広がっていったからなあ。
そして、もう一つ……『
やはり……蓮見先輩は凄いな、と、八坂星羅は思う。
彼女は、戦えなくなった今も、アドバイスや調べ物といった分野で私たち魔法少女を手助けしてくれている。
しかしいつかは、直接的な戦い以外の事でも本当に――魔法少女の戦いから手を引くことになるだろう。もしそうなったとして、私なんかで代役が務まるなんて思えない。八坂先輩は――凄すぎる。
そんな事を考えていると――横から。
「お待たせしました。『超超特大ビッグイチゴパフェ』です。以上でご注文はお揃いでしょうか?」
ドーーーーーンッ!! と、テーブルにずっしりと置かれたのは――イチゴミルクの入っていたコップでさえ大きいと思ったのに、その何倍も大きなガラスの容器に、これでもかというくらいのコーンフレーク、アイス、生クリーム、溢れんばかりの果物……この世のスイーツというスイーツを全て詰め込んだような一品。
「はい、ありがとうございます〜」
蓮見がそれを受け取ると――『待て』から解放された犬のように、がつがつがつがつっ! と、勢いよく食べ始める。
「想像の何十倍も大きいわよ、これ……。蓮見先輩、食べ切れるんですか?」
「おうぅーあえぇ〜っ!」……食べながらなので、何を言っているのかは聞き取れないが……多分、こんな大きなパフェも、蓮見先輩一人でペロッと平らげてしまう事だろう。
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