このレビューを読んでいるあなたは、他人に強い感情を抱いたことがあるだろうか?
期待を裏切られたことへの失望、目の前から消し去りたいほどの殺意。嫉妬、羨望。あるいは狂おしいほどの情念。
人間は誰しも、大なり小なりそういった負の感情を持ち合わせ、折り合いをつけながら生きていると私は思う。
そういった意味では、この物語に出てくる登場人物達はきっと『どこにでもいる』のだろう。
ただ、折り合いをつけ、内で留めていたものが外れてしまっただけで……。
この話は、生霊が視えるという以外はどこにでもいそうな少女の視点から始まる。
生霊とは何か、彼女とどう関わってくるのか。
読者はそれを息を潜めながら読み進めるだろう。だが、油断してはいけない。
詳しくは本編を読んで体感してほしいが、この物語はある時を境に読者の世界が反転する。
息をつく暇もないほどに狂気の世界に引きずり込まれ、気がつけば最後の一文まで読み進めているはずだ。
そして、最後まで読んだ後にどうして作者がこの物語のタイトルを『生霊』ではなく『生霊探し』としたのか考えてほしい。
誰が、なぜ、探すのか。
込められた意味に気がつく時、きっともう一度ゾクリとするはずだ。
そうして、きっとあなたも背後を確認したくなるだろう。
人間の背後に付きまとう黒い生霊が見えてしまう女子高生、立花藍。ぎょろりと白眼を剥き、異様に小さな黒目で藍を見つめる生霊たち。藍が幼い頃、マンションの隣の部屋に住んでいた友達の母親の背に生霊が見え、その女性は間も無くマンションから飛び降り自殺を遂げた。その後も、背中に生霊を負った人々は皆奇妙な変死を遂げていく。
そして、ずっと住み手のいなかったマンションの隣室に引越してきた男子高校生の背にも、同じ生霊が——。
彼らの背負う生霊の正体は。そして、その黒い影が見える藍に待ち受けるものは。
ネタバレは避けたいため、ここには多くのことは書かずにいたいと思います。是非とも一切の前情報なく読んでいただきたい作品です。
人間たちが背負う生霊の不気味さと、その生霊が彼らに付き纏う原因に、読み手は強く惹きつけられずにはいられません。そして、作品にたなびいていた薄黒い靄がとうとう形を現し始めるかのような、息をつく暇もないほどに緊迫したクライマックスはまさに圧巻。読み手の誰もがいろいろな意味で言葉を失うはずです。
さらさらと心地良く悩に入ってくる端正な文章が、物語のどろりとした闇の重さをバランスよく調整し、過度の負担なく読み進めることができます。あまりにもドロドロと血生臭いホラーは苦手なのですが、本作の恐ろしさの度合いはとても好きでした。
この世で、本当に恐ろしいものとは何か。読後、背筋の冷える身震いとともにそんなことを改めて深く考えさせられる、大変読み応えのあるホラー作品です。是非、ご一読ください。
『生霊探し』
読了後、この言葉の本当の意味を理解して鳥肌が立ちました。
生霊。
それは本来恨み人や想い人に向けて形となった思念が放たれるもの。
そういう認識でいましたが、一概にはそう言い切れないものなのかも知れません。
そういった既存の概念はこの作品を読み進めていくなかで取り除かれていきます。
主人公である立花藍は他人の悪意を生霊という形で視ることができる以外は、特に普通の高校生と変わりありません。
友達が居て、親子仲も良く、部活動に励み、時折恋もする普通の女子高生です。
そんな普通の高校生である藍が隣に越してきた三上という少年と出会ったことで運命の歯車が動き出します。
これが読み始めた当初の感想です。
しかし読了した今となっては上記の感想は非常に甘かったと痛感しています。
読了したあとに作品のタイトルをもう一度見ながらじっくり考えてみてください。
これほど怖いタイトルはそうそう無いことに気付くはずです。
立花藍は、幼い頃から人の背中から立ち上る黒い靄のようなモノが見えてしまう体質だった。
それは、幼少期、隣の友達の母親だったり。また、小学生の時の公園で出会った浮浪者だったり。同じクラスの男子だったり。友達の父親だったり。
そして、高校生になって隣近所の三上からも背中から黒い靄が見えてしまう。
――「黒い靄」作者はそれを「生霊」と定義付けてしまう――
「生霊」とは、そもそも他人の怨念(恨み、辛み、妬み、僻み、嫉み)が人に飛ばされ取り憑く・と普通は解釈しているが今回の話はそうでは無い。
この話では、その人の背中から出ている黒い靄はその人の悪想念「生霊」(恨み、辛み、妬み、僻み、嫉み)なのだ。だから、本人と同様な表情を背中の奥で見せるのは、自分自身が人を嫉む悪想念「生霊」を自ら纏ってしまった現象なんだろう。
なぜ藍にだけ生霊が見えるのか?どうして生霊がとり憑くのか?なぜ生霊にとり憑かれたら、その人は亡くなってしまうのか?
多くの謎を残しながら物語は、不安と恐怖を連れて進んでいく……
日常に潜む変質者とは、この様に生霊がとり憑いているのかも知れない。
アナタの後ろに何かが憑いていないか、時々振り返ってみてはどうでしょうか?
幼いころから他人の生霊が見えてしまう主人公の藍。
生霊はなぜ見えてしまうのか、生霊とは何なのか。
その答えを探し求めながら、物語は思わぬ方向へと向かっていきます。
ボリュームがありながらも冗長さを感じさせない、正統派のホラー小説です。
無闇に怖がらせようとするのではなく、冷静な語り口の中に読み手を引きつけて離さない握力のようなものを感じます。
淡々とした語り口で読者を少しずつ恐怖へ引き込めるのは、作者様の文章力のなせる技だと思います。
個人的にホラーをあまり読むことはないのですが、この作品は一気に読めてしまいました。
というのは、創作とリアルとの線引きの仕方が絶妙だからではないかと思います。
淡々と、どこか他人事のように語られていた物語がふと自分の近くに感じられる……。
フィクションなのに絵空事のように感じられず、作者様の表現力に脱帽です。
そして、そのような想像の余地を残しているところも素晴らしいです!
ホラージャンルをあまり読んだことのない方へもお勧めしたい一作です。
他人に憑いている生霊が見える主人公。
この生霊は一般的なものと違って生霊と憑かれている人が同一人物(?)なのですが、じゃあ一体これは何なのか。
確かなのは、主人公が今までに出会った生霊に憑かれている人はみんな死んでしまったということ。
だから主人公は新たに生霊に憑かれた同級生を見つけた時、彼のことを気にかけるようになるのですが――
本作、やばい人がたくさん出てきます。そしてその誰もに絶妙なリアリティがあって、読みながら「生きてる人間って怖い……」とぞわぞわしながら楽しむことができます。
文章も読みやすいですし、ただただ読み手を怖がらせるだけという話でもありません。
10万字でコンパクトに、けれど恐怖と驚きが詰まった一作となっておりますので、ぜひ読んでみてください。
子供の頃から人の背後に黒い靄を視認できた主人公(藍ちゃん)。
見えてしまったら、目を背けたくても背けられない状況まで追い込まれてしまう。それは偶然なのか? 必然なのか? そして、靄の正体は何なのか?
ホラー感たっぷりな描写に、しっかりとした設定とキャラ使い。読み進めても飽きることなく怖さを残し続けてくれます。各エピソードごとに読み手を妄想させる余白も作ってくれて、ちょっとした謎解きのような感覚も楽しめます。
藍ちゃんの視える靄は、死へのカウントダウンなのか?
衝撃のラストに心が震えること間違いなしです☆
主人公は高校生の少女、立花藍。
幼いころから彼女は何度か人の後ろに黒い霧のような霊が見えることがありました。
それは取り付かれている本人と同じ顔をしている「生霊」であり、その人間は必ず遠からず死んでしまうのです。
そしてある日、彼女は同級生の三上崇之にも生霊が憑いていることに気が付き、何かできることはないかと行動するのですが……。
リアルな心理描写で平和な日常に忍び寄って来る不穏な展開が描かれています。
そして途中で主人公以外の視点が描かれることで別の事実が明かされる構成は物語に漂う恐怖感をさらに盛り上げていき、最後の最後まで読み手をゾクリとさせてくれます。
ショッキングな描写もありますが、ホラーが好きな方にはぜひお薦めの作品です。
激しい嫉妬や怨念など屈折した心を持つ者に宿る"生霊"を見ることができる少女・藍。彼女はこれまでの人生の中で何人か、生霊のついた人間に出会ってきた。高校生になった彼女は、同級生の男子・三上に生霊がついていることを知る。
これまでの経験から生霊のついた人間には何らかの暗い感情があることを藍は知っていた。その心の闇の化身とも言える生霊が意識せずとも見えてしまう藍は、果たしてそれにどう立ち向かうのか......。
自分の目には映らない、そして多くの場合覗くこうとすることさえ許されない隣人の心の闇が、次の瞬間には自分に向かないという確かな保証はいつもないことの恐怖は物語の最後の最後まで続き、衝撃的なラストへと読者を導く!