この世で本当に恐ろしいものとは何か。

人間の背後に付きまとう黒い生霊が見えてしまう女子高生、立花藍。ぎょろりと白眼を剥き、異様に小さな黒目で藍を見つめる生霊たち。藍が幼い頃、マンションの隣の部屋に住んでいた友達の母親の背に生霊が見え、その女性は間も無くマンションから飛び降り自殺を遂げた。その後も、背中に生霊を負った人々は皆奇妙な変死を遂げていく。
そして、ずっと住み手のいなかったマンションの隣室に引越してきた男子高校生の背にも、同じ生霊が——。
彼らの背負う生霊の正体は。そして、その黒い影が見える藍に待ち受けるものは。

ネタバレは避けたいため、ここには多くのことは書かずにいたいと思います。是非とも一切の前情報なく読んでいただきたい作品です。
人間たちが背負う生霊の不気味さと、その生霊が彼らに付き纏う原因に、読み手は強く惹きつけられずにはいられません。そして、作品にたなびいていた薄黒い靄がとうとう形を現し始めるかのような、息をつく暇もないほどに緊迫したクライマックスはまさに圧巻。読み手の誰もがいろいろな意味で言葉を失うはずです。
さらさらと心地良く悩に入ってくる端正な文章が、物語のどろりとした闇の重さをバランスよく調整し、過度の負担なく読み進めることができます。あまりにもドロドロと血生臭いホラーは苦手なのですが、本作の恐ろしさの度合いはとても好きでした。

この世で、本当に恐ろしいものとは何か。読後、背筋の冷える身震いとともにそんなことを改めて深く考えさせられる、大変読み応えのあるホラー作品です。是非、ご一読ください。

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