淡々とした語り口に潜む狂気

幼いころから他人の生霊が見えてしまう主人公の藍。
生霊はなぜ見えてしまうのか、生霊とは何なのか。
その答えを探し求めながら、物語は思わぬ方向へと向かっていきます。
ボリュームがありながらも冗長さを感じさせない、正統派のホラー小説です。

無闇に怖がらせようとするのではなく、冷静な語り口の中に読み手を引きつけて離さない握力のようなものを感じます。
淡々とした語り口で読者を少しずつ恐怖へ引き込めるのは、作者様の文章力のなせる技だと思います。

個人的にホラーをあまり読むことはないのですが、この作品は一気に読めてしまいました。
というのは、創作とリアルとの線引きの仕方が絶妙だからではないかと思います。
淡々と、どこか他人事のように語られていた物語がふと自分の近くに感じられる……。
フィクションなのに絵空事のように感じられず、作者様の表現力に脱帽です。
そして、そのような想像の余地を残しているところも素晴らしいです!

ホラージャンルをあまり読んだことのない方へもお勧めしたい一作です。

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