流されないことの強さと尊さを、ささやかに謳う物語

確固たるアイデンティティを持つティーンエイジなんていない。

これが私だ、と胸を張るには、世界は狭いし、知識は限定的で、与えられた責任も追わされた義務も、吹けばふわりと舞い上がってしまう羽毛みたいに、軽い。

主人公、岳人も然り。

それでも彼は、素晴らしい才能を持っている。
当たり前だとみんなが語る価値観に、違和を感じる嗅覚。
その違和感を無視しない、自覚のない勇気とか、強さ、みたいなもの。

そんな才能は、どんなことでも、幸せに変換することのできる尊さを、必ず、携えている。

そしてそういう強いひとは、同じような強いひとを惹き寄せる。
例えば、鉄也のような。

アイデンティティの確立されてないティーンエイジたちが、こぞって“みんな”に流されるなか、岳人も鉄也も、確信のない違和感を、決して蔑ろにしない。
だから、輝いて見える。
その尊さを、教えてくれる作品。

とはいえ、物語の中じゃない現実で、本当にそれを実践するのも、そもそも気づくことも、困難だ。
だからこそ、十代の皆さんに是非読んでほしい。
読んで、何かきっかけを、きっかけだけでいいから、掴んでほしい。
そう、思わせる作品。





・・・ん?
鉄也?

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