曖昧にぼやけるばかりの自我にも、奪いきれない尊い記憶が在る

「ついていく富子との荒川散歩は、いつしかつれていく散歩になった」

この一節に込められた悲しさと虚しさ。
それをあるがままには受け止められない微熱が漂う、行間に潜んだ祖母への想い。

微かな希望は、僅かに溢れ落ちる祖母のささやかな笑みの中にしか見いだせないのに、それを見逃さずに掬い上げる主人公、真由の暖かな慈愛。

隅田川と江戸川の華やかさに掠れがちな荒川を背景に、穏やかに綴られる、家族という見返りのない愛情を描いた、静かに胸に染みる物語。

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