0と1の羅列の中に優しく潜んだ、仄かな微熱と瀟洒な風情

人の過ちで、人の住まうことができなくなった、台地。
その再起を担った「博士」と、0と1の羅列で自我を形成するAI、エアリス。
ふたりだけの閉じられた空間の中で、かつてこの地に溢れていた風情を妄想する。

無から何かを産み出すことができなくとも、エアリスは無数の桁数の0と1を駆使して、昔ここに確かに在った、博士の懐古する武蔵野の台地を、健気に掬い上げる。

何を発しても、何を想っても、虚しくくぐもってしまってもおかしくない暗く狭く澱んだ世界。
その中で、どこか不器用に寄り添う人と機械。
ふたりの不可思議な関係の中に潜む情という微熱を、少しはにかみながら、瀟洒で粋な“唄”でラッピングした、心に染みる秀作。

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