第7話:ゼノ帝国



私は今、アーベル様の部屋にいる。



「コルフォルスさん、とりあえずは大丈夫みたいですね」



それでも、意識が無い状態であり、しばらくは絶対安静が必要だった。



「ロミリア、黙っててごめんよ。コルフォルスは心臓が少しずつ悪くなる不治の病にかかってるんだ。最近は体調が良いみたいだったから安心してたんだけど……」



とても落ち込んでいる。見てるだけで、私も悲しくなってしまう。



「コルフォルスは僕の魔法の師匠なんだ。彼のおかげで王族魔法も使えるようになってきた。師匠としてこんなに素晴らしい人はいないよ。それに、子供の頃は外国に出ていることが多かった両親の代わりに、僕の面倒をよく見てくれた、本当の祖父みたいな人なんだ。ねえ、ロミリア……コルフォルスが死んじゃったらどうしよう!?」



アーベル様の両目から、ぼろぼろと涙が零れてきた。



「……大丈夫です!きっと良くなりますよ!」



――っ私はこんなセリフしか言えないの!?



自分が悔しい……。




それから少しして、緊急の会議が開かれた。紋章をいっぱいつけた、軍人の偉い人もいる。どうやら、国の防衛に関する会議みたいだ。



「皆、よく集まってくれたな。まずは、本題の前に話しておくことがある。アーベルの婚約が決まった。こちらにいるのは婚約者のロミリア・ガーデニー嬢だ。ロミリア殿、皆に挨拶を」



王様に言われ、私は慌てて立つ。



「ロ、ロミリア・ガーデニーと申します。出身はアトリス王国でございます。よろしくお願いいたします。」



「やれやれ、アーベル様もようやく相手が見つかったか」



「アーベル様のやつ、凄い美人を連れてきたな」



「いつまでもアーベル様のことを大事にしてやってくれよー」



みなさん笑顔で祝福してくれた。



「それでは、本題に入る」



王様が言うと、一瞬で会議室の空気が変わる。



「知っている者もいると思うが、コルフォルスが倒れた」



とたんに、みんながざわざわしだした。しかし、王様が手を挙げると、すぐに静かになる。



「どうやら、命には問題ないらしい。だが、しばらくは休養が必要とのことだ。皆に集まってもらったのは言うまでもない、ゼノ帝国の件だ。今朝、宣戦布告の正式な文書が届いた」



それを聞くと、さっきよりも大きな声で出席者たちは話し出した。



――え?宣戦布告って、戦争するってこと?



ゼノ帝国とは、軍事力を武器にここ最近力をつけてきた国だ。とても好戦的な国で、武力侵略により無理やり領土を広げていると聞く。



――やっぱり、噂は本当だったんだ。そういえば、アトリス王国にも少しずつ領土が近づいてきてなかった?いや、きっと大丈夫よ。



そのとき、ダンッ!とアーベル様が机を激しく叩いて立ち上がった。



「お父上、どうして私に教えてくださらなかったのですか!?知っていれば、ロミリアをこんな時に連れてくることはありませんでしたよ!」



「アーベル、文書は今朝届いたのだ。もし、もっと早く届いていれば、もちろんそなたにも教えていた。ロミリア殿、こんなことになって申し訳ない。しかし、これも世界情勢なのだ。もちろん、そなたにはすぐにでも国外の安全な場所に避難してもらうつもりだ」



アーベル様は下を向いて座る。



「コルフォルスが倒れたことで、国境の守護結界が弱り始めた。完全に消えれば、ここぞとばかりにゼノ帝国は攻めてくるだろう。結界を貼り直すには地下の大聖堂で、コルフォルスに魔力を注いでもらわねばならぬ。さて……どうしたものか」



――そうか、あの大聖堂が立派だったのは、国を守る重要な場所だからなんだわ。



「陛下!今すぐ開戦するべきです!奴らは隙さえあれば、迷わず攻めてくる連中です!俺たちは絶対に負けません!後手になっては、より大きな被害が出てしまいます!」



王様に負けないくらい屈強な男性の軍人が言った。



「陛下、私も開戦に賛成です。ハイデルベルクほどの武力であれば、短期決戦で片が付きます。先手必勝を狙うべきです」



凛々しくて賢そうな女性の軍人も賛成する。



「うむ……。たしかに、王妃の転送魔法を使えば、こちら側が有利な状況を作りやすいだろう。しかし、できることなら戦争は避けたいのだ。戦争になれば多少なりとも犠牲が出る」



王様の言葉を聞くと発言する者もいなくなり、無言の時間が流れる。アーベル様もずっと下を向いたままだ。



――どうすればいいの?アーベル様や王様、王妃様、私を歓迎してくれた人たちを助けたい。



と思ったとき、一人の軍人が王様に尋ねた。



「コルフォルスの回復はいつ頃になりそうなのですか?」



――そうよ、私には回復魔法があるじゃない!



「医療官たちが懸命に手当てしているが、なかなか厳しいそうだ。あと数か月はかかるだろうな。せめて、回復魔法が使える者がいれば……」



「数か月ですか……厳しいですね」



そのとき、私は覚悟を決めた。



「あ、あの!」



私は大きな声を出す。その場にいる全員が私に注目した。



――がんばれ、ロミリア!



「回復魔法なら、私も使えます!」



会議室はシーンと静まり返る。ひそひそと、「まじかよ」「すげーな」のような声が聞こえてくる。



「回復魔法は廃れて久しいと言うが、それは誠ですかな、ロミリア殿」



王様が私の方を見ながら言った。私が答える前にアーベル様が話す。



「それは本当です、お父上。私が魔物に襲われ傷を負った時も、あっという間に治してくれました」



「ふむ……。では、ロミリア殿。一度コルフォルスを見てもらえるかな?」



「はい!私がコルフォルスさんの病気を治します!」

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